ユーレイの教室 後編
普段私たちが使っている教室の半分程度の広さの室内。
その中心に設置された、大きな長方形のテーブルを取り囲むように私たち4人は椅子に腰かけていた。
「わたしは幽谷深霊。地縛霊です!」
あっさりとそんな自己紹介をされ、拍子抜けする。
「ユーレイちゃんって呼ばれたんですけど、本当に幽霊になっちゃいましたっ」
どう言う訳か、非常に嬉しそうなユーレイちゃん。
「だって、大抵の人はわたしを見たら逃げちゃうんですよ……」
「悪い幽霊ではないみたいですね」
がっくりと肩を落とし、うじうじとしだすその姿を見ていると、刀子の言うとおり害は無いように見える。
寧ろマスコットとして一家に一人欲しいくらいだ。
まぁ、彼女の後姿は艶やかな黒髪のお陰で一家の台所に一匹は居そうな雰囲気もあるが。
「それでユーレイちゃんだっけ?」
「はいっ!」
とりあえず、彼女が幽霊らしいと言うことは彼女の言葉で分かった。
だが、この教室は何なのだろうか――それが分からない。
「実はわたしもよく分かりません!」
あっけらかんとそう断言された。
「わたしも死んじゃって気づいたらこの教室に居たんです。だから詳しい事は……」
「よくあるパターンとしては、ユーレイちゃんの強い思いがこういう空間を生み出したっていうのが鉄板だよね」
不意に陽巫子が口を開く。
ユーレイちゃんの強い思いが、か……
そういえば、彼女は自分のことを地縛霊だと言っていた。
「地縛霊――何かしらの理由でその土地に縛り付けられた幽霊の事ですね」
「はいっ、基本的にはその場所に対して強い念を持ってたり、自分が死んだ事に気付かないで死んだ場所に居続ける幽霊が主ですね」
刀子の言葉にユーレイちゃん自身がそう補足する。
「そういえば、なんでユーレイちゃんは自分の事を地縛霊って言ったの?」
陽巫子の問いは尤もだ。
彼女は自分自身で地縛霊だと言った。
と言うことは、その理由等にも心当たりがあるのではないか。
「わたしはこの教室から外に出ることが出来ないんです」
ユーレイちゃんは少し寂しそうにそうポツリと呟いた。
このユーレイの教室に縛られた幽霊――だから自分は地縛霊だ、と。
「ユーレイさんはウチらがここに入ってきたとき“学校怪奇同好会へようこそ”と仰ってましたが――」
「はい、この教室はわたしが生きてた時に所属していた学校怪奇同好会の部室そのままなんです」
もしも、陽巫子の言った通りこの教室がユーレイちゃんの思いから作られた空間だとしたら、彼女はこの同好会に強い執着を抱いているようだ。
と、いうことは彼女が地縛霊になったのはこの同好会に対して何か大きな未練があるから、なのだろうか。
「それは有り得ますね……ユーレイさん、何か引っかかる事はありませんか?」
「引っかかる事ですか?」
「例えば、ユーレイさんが死ぬ直前とかにこの同好会で何かがあった、とか」
刀子の言葉にユーレイちゃんは暫く考え込んでいたがふと面を上げる。
「そういえば、同好会でこの学校の七不思議を作ろうっていう話があったんです」
「七不思議を作る、ね」
「はい、その七不思議の中でわたしが提案した一つがユーレイの教室なんです」
「波さん」
不意に刀子が口を開いた。
「ユーレイさんがこの教室に縛られる理由が七不思議の完成を待たずに死んだという事なら、ウチはユーレイさんが自由になれるように力を貸すべきだと思います」
「つまり、私たちでこの学校の七不思議を調べる、と?」
「はい」
刀子の瞳には決意が宿っている。
こういう目をしている時の刀子は止めても無駄だという事は分かっていた。
「しょうがないわね――やるわよ」
こうして私たちは天原高校の七不思議を調査することになったのだった。