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ユーレイの教室 前編

「皆さんは、天原高校の七不思議をご存知ですか?」

夕日が差し込む黄昏時の校舎。

廊下を歩きながらの他愛ない雑談。

部活生の喧騒の中、天水刀子が口を開いた。

「この学校にも七不思議なんてあるんだ。初めて聞いたよ」

好機の態度を見せるのは昼女陽巫子。

食い入るように刀子を見つめる反面、どこか怯えのようなものも感じる。

「波さんはご存知ですか?」

刀子の言葉に私――誘波は無言で首を横に振った。

「ね、ねぇ……七不思議ってどんなのがあるの?」

刀子は陽巫子の問い掛けに待ってましたと言わん表情を浮かべる。

「聞きたいですか?」

勿体ぶる刀子に、陽巫子が恐る恐ると言った様子で頷いた。

「波さんは大丈夫ですか?」

「別に大丈夫よ。話すならどうぞ」

怪談とか私は特に怖いとは思わない。

正直、それほど興味もないのだが暇つぶしには丁度いいだろう。

「それでは、お話ししましょう。この天原高校の七つの怪談……」

そう言うと刀子は声のトーンを落とし、改まった態度を見せる。

気のせいだろうか……今まで聞こえていた喧騒が嘘のようにぴたりと止んだ。

「一つ目の怪談……“ユーレイの教室”」

刀子の声が廊下に反響する。

まるで、私達しかこの学校にいないかのような錯覚。

私は奇妙な胸騒ぎを感じた。

「夕日が差し込む三階の廊下。そこではある言葉を言ってはならないそうです」

「ど、どーして?」

「その言葉を言ってしまうと。ユーレイの教室に迷い込むから……そう言われいます」

「ユーレイの、教室」

陽巫子はごくりと唾をのむ。

「ユーレイの教室、ね……その教室に迷い込んだら一生出られないとか?」

私の言葉にびくりと肩を震わせる陽巫子。

陽巫子は結構怖がりみたいだ。

一方、刀子は落ち着いた様子で

「迷い込んだ教室で、不思議な少女と出会うって以外はよくわからないです」

不思議な少女か……まぁ、その少女がそのユーレイなのだろうとは思うが。

「パッとしないわね」

「その女の子って幽霊だよね……幽霊だよね……」

小声でそう繰り返しながらガタガタ震える陽巫子をしり目に、私は追い打ちをかけるように言葉を続ける。

「で、その言葉って何なの?」

「えっ!?」

私の言葉に陽巫子が慌てふためいた。

「待って待って波! それはマズイよう!!」

「良いじゃない。刀子、その言葉って何なの?」

狼狽する陽巫子をよそに、私は陽巫子の事は構わなくていいと私は刀子にサインを送りながら、話の続きをするよう促す。

刀子はマジメな表情でこう言った。

「それはですね――」

「――――――ッ!!!!???」

「“ユーレイちゃん”、です」

ユーレイちゃん? 幽霊ちゃん……

なんというか在り来たりと言うか、解りやすいというか……

「馬鹿馬鹿しい」

「でも、面白くて良いと思いませんか?」

なんて微笑む刀子。

確かにそうかもしれないが……まぁ、学校の怪談なんてこんなものか。

拍子抜けした私が、刀子へ次の怪談を聞こうとした時だ。

「あたし、あたし、重大な事に気が付――」

陽巫子が何か慌てた様子で私と刀子の間に割って入ろうとする。

そんな陽巫子を私は素早く制すると呟いた。

「何か奇妙ね」

不思議な静寂。

夕日で紅く照らされた廊下。

まるで時間が静止しているかのような感覚が襲う。

「どうかしましたか波さん?」

首を傾げる刀子に私は告げる。

今、私たちが陥ってる奇妙な事態を。

「変だと思わない? 私達、さっきから結構歩いているはずなのに、ずっと同じ廊下を歩いてるように感じるのよ」

私の言葉に、刀子の表情にわずかな緊張が見られた。

「それに、教室の扉も見当たらない……ここは、何処?」

「だ、だから、さっき言おうと思ってたのに……」

その疑問に、陽巫子が口を開く。

「何を?」

「夕日が差し込む三階の廊下って……ここじゃない?」

「!!」

私たちは気付いた。

そうだ、そういえばここは三階の廊下だ。

おまけに、夕日がたっぷりと差し込む、西向きの窓がある廊下……

「いや、でもまさかですよね」

刀子はそう言いながらも、今直面している事実から目をそらせない。

「あれ、波……教室が、ある」

陽巫子の言葉通り、目の前に教室の扉があった。

さっきまで姿は見えなかった。

いつの間にか現れた教室へ至る扉。

まさかこれが――

「“ユーレイの教室”……」

どうするべきか、この扉を開けるべきか。

それとも……

私は背後を振り返ってみる。

そこに続くのは、先の見えない夕日に照らされた廊下。

「波……どーしよ」

「波さん……」

陽巫子と刀子が二人揃って私を見つめる。

こういう時に決断をするのはいつでも私だ。

面倒くさいけど、仕方ない。

「身構えなさい。陽巫子、刀子、教室に突っ込むわよ」

「うん……!」

「わかりました」

私の言葉に二人は頷き、身をかたくする。

一度、軽く深呼吸をしてから私は扉を思い切り開いた。

「わぁ、久しぶりのお客様です!」

意を決めて扉を開いたその向こうには、一人の少女の姿があった。

やや癖のある黒髪はその目元を隠すほどに長く伸び、その隙間からピンク色のフレームをしたメガネが見える。

着込んでいる制服は私たちと同じ天原高校の女子用制服。

見た目だけなら、私たちよりも一つ二つくらい下に見える少女の姿に私達は拍子抜けする。

あまつさえ、黒髪の少女は口元に笑みを浮かべながらそんな事を口にしたのだった。

「学校怪奇同好会へようこそ!」

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