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たった一人私が手に入れれなかった物

作者: 爱丽丝
掲載日:2026/04/15

美の女神を元に作りました。

私は愛の女神だった。

愛されることも、愛させることも、私には容易かった。

ひとたび私が心を向ければ、花はより深く咲き、宝石はより強く輝く。人の心であればなおさらだ。

私が「愛しい」と思った瞬間、その者の心はほどけ、やがて私へと差し出される。抗う者はいなかった。いや、抗えなかったのだ。だから私は、それを愛と呼んでいた。

すべては、私のものになるのだから。

ある時代、ある土地で、ひとりの少年に出会った。

風のよく通る丘の上だった。彼は何をするでもなく、ただ空を見上げていた。手には何も持たず、誰かを待つ様子もない。それでも、その姿は満ちているように見えた。

私は興味を持った。近づいても、彼は気づかない。

声をかけて、ようやく振り向いた。

その瞳には、欲がなかった。

「あなたは、誰?」

そう尋ねる声も、どこか穏やかで、恐れがない。

神である私を前にしても、跪こうともしなかった。

面白い、と思った。だから私は、彼を愛した。

いつものように。ただ、少しだけ強く。

けれど。何も、起こらなかった。

彼の瞳は変わらない。私を見ても、熱を帯びない。

心が傾く気配すらない。私は初めて、戸惑った。

何度も試した。優しい言葉をかけ、笑みを向け、時には奇跡すら見せた。それでも少年は、ただ静かに受け取り、そして手放した。

「きれいだね」

花を見て言うように、彼は私を見てそう言った。

「でも、僕のものにはならない」

その言葉は、刃のようだった。

私が愛したものは、すべて私のものになる。

それが、この世界の理だった。なのに、彼だけが違った。

ある日、私は問いかけた。

「なぜ、私を望まないの?」

少年は少し考えてから、こう言った。

「あなたは、全部持っていくから」

その意味が、すぐには分からなかった。

「僕が好きになるなら、それは僕のものでもあってほしい。

でもあなたに渡したら、きっと全部あなたのものになる」彼は笑った。責めるでもなく、ただ事実を述べるように。

「それは、ちょっと寂しい」

その瞬間、胸の奥が軋んだ。

私は初めて気づいた。

これまで手に入れてきたものは、すべて「奪った」ものだったのだと。相手の心を、形を、意味を、すべて。

愛しているつもりで、何も残してこなかったのだと。

それでも、私はやめなかった。やめられなかった。

彼を、どうしても欲しかったから。

けれど、結末は変わらない。少年は老いた。

穏やかに、静かに。最後まで誰のものにもならずに。

その最期の時、私はそばにいた。

彼は私に気づき、かすかに笑った。

「きれいだね」

最初と同じ言葉だった。

「でも、やっぱり僕のままでいたい」

そのまま、彼は目を閉じた。私は、何もできなかった。

奪うことも、留めることも。ただ、見送ることしか。

それから、どれほどの時が流れただろう。

私は今も、愛の女神だ。

愛したものは、すべて私のものになる。

けれど。あの少年だけは、違う。

手に入らなかったはずなのに、

なぜか、ずっとここにある。

消えずに残っている。

それはきっと、奪わなかったからだ。

これは、昔の話。

私が初めて、

愛を手に入れなかったことで、

愛を知ったときの話。


奪うと愛は別物

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