6.嵐の後に
よろしくお願いします。
「ユウ!」
ルビアが、突進するように抱きしめてくる。
「う……ぐ、苦しいよルビア」
抱きしめ返しながら、文句を言うとルビアは。
「……今度こそ、あんたのこと忘れるかと思った」
そう――自身なさげに――ポツリと呟いた。
「……今度こそ、あんたのこと見えなくなるんじゃないかって……」
いつもは強気な彼女が、今は少しだけ――幼く見えた。
抱きしめ返す腕に、力を込める。
「言ったでしょ?たとえルビアに忘れられても――何度だってやり直す」
「……うん」
「たとえ――ルビアに見られなくなっても――何度だってあのベランダからまた再会するよ」
「うん!」
「……あー、2人とも」
――と、セイランが話しかけてきた。
2人で、彼女を振り返る。
「熱々なところ申し訳ないんだけど、ちょっと良いかな?」
ここは学園の教室だ。無事な者から保護者が迎えに来て、帰り支度をしている。
ルビアの反応が珍しいのだろう、周りから少なからず注目されている。
私とルビアは、目を合わせてから恥ずかしくなって、ゆっくり体を離した。
「……なによ」
ルビアは、少し不機嫌そうに言う。
「あはは、そんなに警戒しないでよ。別にルビアからユウを取ったりしないってば。僕のお母さんが、挨拶したいんだってさ」
「……待って」
そこでルビアが気づいたように、セイランに尋ねた。
「なぁに?」
「あんた、ユウのこと覚えてるわよね?」
――ハッとする。
そうだ今日の朝、セイランに挨拶されてからずっと聞けなかったが、確かに彼女は私を認識している。
しかも、目を離した後も記憶が継続しているようだ。
何故?
私を取り巻く異常な現象が、正常になってるの?
――ほんの少し、期待する。
「んー?なんのこと?」
セイランは、捉えどころのない笑顔で煙に巻こうとする。
「はぐらかさないで」
怒ったように言うルビア。
「やっぱ誤魔化せないかー」
頬をかいて彼女は説明する。
「まぁ、ここではなんだし廊下に移動しない?ちょうどお母さんにも紹介したいし」
――
「先ほどの戦闘では見事な活躍だった。軍を代表して礼を言う」
廊下にはソウ元帥が待っていた。
「……別に、軍のために戦ったわけじゃないわ」
ルビアは言う。
「ふ……それはそうだ。だが君の活躍で、多くの生徒が助かったのは事実。誇りたまえ」
「……ふん」
素直に賞賛を受け取れないのだろう、ルビアはそっぽを向いた。
「もー、ルビアは素直じゃないなー。お母さんもかたーい」
セイランが話に割り込むと、空気が柔らかくなった気がする。
「……セイラン。軍トップとして、避けては通れない立場というものがだな――」
頭を抑えながら、ソウ元帥が困ったように言うと――。
「うわ。その話長くなるやつ?やめてね。もう耳にタコが出来てるよ」
と、セイランが拒否するように手を挙げた。
「……ぷっ」
そのあまりにもな言いように、思わず笑ってしまった。
3人の目線がこちらに集中する。
「……」
全員黙ってしまった。
――気まずい。
「その……笑ってすみません」
私が謝ると。
「――ふむ、こちらのお嬢さんが?」
ソウ元帥は気にしてない、とかぶりをふりながらセイランに尋ねた。
「そう、この子がクラスメイトの……ユウ、だよね?」
最後は、少し自信なさげに私に聞いた。
「あ、はい!ユウって言います。よろしくお願いします」
私は、慌ててソウ元帥に挨拶した。
「うむ。ソウ・コウレンだ。よろしく頼む」
彼女と握手を交わす。
「なに?あんたユウのこと覚えてるわけじゃないの?」
ルビアが胡乱げな眼差しで、セイランに問いただす。
「うーん、それが正直僕も曖昧なんだよね。覚えてる時もあるし、すっかり忘れてる時もある。逆に2人に理由を聞きたいくらいだよ」
「ルビア……」
私は、彼女の服の裾を引っ張る。
ルビアは、諦めたようにソウ元帥に聞く。
「ちなみに、ソウ元帥も覚えているんですか?」
「スタンピードが起こる直前。ルビアが助けに向かおうとした、少女のことを言ってるのだな?――もちろん、覚えている」
そこでチラッと、こちらを見た。
「ユウと同じ少女かどうかは、少し自信はないが」
「同じよ」
ルビアが肯定した。
「娘から聞いた話では。前日はいなかったのにその翌日クラスに突然現れた生徒がいる、との事だった。しかも周りは違和感を感じていなかったそうだ」
ソウ元帥が説明する。
「うん、そう!それで変なの〜て思って注目して見てたら、ルビアだけがその子に話しかけてたからさ!しかも命令口調で!すわ、これはいじめか!って思ったよね」
セイランが、身振り手振りを加えて話を引き取る。
ルビアが不機嫌そうになったので、慌てて話に割り込む。
「それって、いつのこと?」
私がセイランに尋ねる。
「んー。大体1週間くらいちょい前?」
――リグナ市国が消えたあたりだ。
「心当たりがありそうだな?」
ソウ元帥は私の顔をジッと見ていた。
私は――。
思い切って3人に質問する。
「――リグナ市国って知ってますか?」
「リグナ市国?いや聞いた事ないが」
と、ソウ元帥。
「僕も初めて聞いた」
と、セイラン。
「リグナ市国?――そういえばユウ、前も同じ事――」
ルビアは、そこでハッとしたように私を見た。
私は頷く。
「うん。つい約1週間くらい前に、東にあった都市国家だよ」
――そこで緊張で唾を飲み込む。
ソウ元帥とセイランも、話の続きを察したようだ。2人とも目を大きく見開いている。
「でも――消えたの。都市丸ごと」
空気が重くなるのが分かった。
「どこの記録からも。みんなの記憶からも――ね」




