5.スタンピード-予兆-
本日投稿分です。よろしくお願いします。
――
その日は雪がしんしんと、降り積もる日だった。
「……誰?」
2階の角部屋。木から伝ってベランダに降りた私に、ルビアはそう言った。
……ああ。
……そっか。
……そうなんだ。
……やっぱり、そうだよね。
「……ごめんね。忍び込むような真似して。すぐ帰るね」
踵を返して帰ろうとすると――
「――待って」
「――え」
「私たち……どこかで会った?」
そう言って、暖かい手で握ってくれた。
――だから、私は。
――
「――ユウ!しっかりして!」
意識をハッキリさせると、ルビアの心配そうな顔が映った。
手が――暖かい。
ルビアにぎゅっと、握られている。
手を握り返そうとすると――
――ドォン!
爆発音――
遅れて衝撃――
「うわぁぁぁぁあ!」
生徒の悲鳴が響き渡る。
ハッと、音の方に視線をやると、壇上空中に2人の影。
1人はジャバリ、もう1人は試験開始前に紹介されてた、ソウ元帥だ
そして――その2人の視線の先には。
夥しい数の、飛行型魔物の群れ。
「な、何が!?」
「説明は後!まずは避難するわよ!」
ルビアは、焦った声で私のことを引っ張る。
周りに視線をやると、魔物たちと戦う先生たち。
セイランも、戦ってるのが見えた。
ここは城壁の外の試験会場だ。
早く城壁の中へ――
ルビアに引かれて、逃げようとすると――
横合いから、魔物が襲ってきた――
「ひっ――」
「――金の炎……イグニス!!」
――刹那だった。
熱い奔流が瞬いた、と思った瞬間――
金色の光が弾けた。
遅れて、爆ぜる音。
――ルビア、強い。
黒く炭化した魔物の遺体の横を、走り抜ける――
「きゃぁぁあ!」
悲鳴に振り向くと――
大型の魔物が、生徒に牙を向くところだった。
周りは――
教師も、他の生徒も、間に合わない。
「……ルビア!」
彼女を見る。
「でも……」
手が――強く握られる。
「私は大丈夫!行って!」
「……っ」
――刹那の躊躇、だが金色の光が爆ぜて、生徒の元に飛んでいった。
気づいたら、もう魔物の目の前にルビアがいた。
「――フレア!!!」
彼女が出した金色の炎に、魔物が包まれるのを確認した後すぐに踵を返す。
私も避難しないと。
――ルビア視点
「イグニス!イグニス!――イグニス!」
迫り来る魔物の群れを、次々と炎で殲滅していく。
逃げる生徒に当てないように気をつけているから、魔物の数がなかなか減らない。
焦りがつのる。
早く――ユウの元に、戻らないと。
「あれ!?ルビア!ユウと一緒に逃げたんじゃないの?」
と、背中合わせになったセイランが言ってくる。
「ユウが助けに行けって!仕方なくよ!イグニス!」
「なるほど、君らしいや!……流れろ……アクア!」
「あんた!その水魔法で、魔物だけ全部流せないの?――イグニス!」
「……アクア!……無茶言わないでよ〜これ結構繊細なんだよ?」
……チッ、と舌打ちをする。
「あ!酷いんだ〜」
「この状況に、舌打ちしたのよ!」
魔物を減らしながら、周りを見渡す。
「あんたの親と、あのバカ教師は?」
「あそこ!」
セイランの視線の先を見ると、北の空に2人が空中歩行魔法で浮いていた。
ジャバリは雷で、魔物を一瞬で消し炭に。
ソウ元帥は氷で、空間ごと凍らせるように、群れを殲滅する。
「……すっご」
セイランが思わず、と言った感じで声を発した。
「……ふん、あれくらい――やろうと思えば、できるわよ」
「あー負け惜しみだ〜」
「良いから魔物を倒しなさい!」
――ユウ視点
試験会場の外、
人の波がごった返して、城壁の中へと向かっていた。
――早く。
――早く中へと。
――皆が急いでる。
焦った足音。
罵声。
人の群れに流されていると、
自分がこのまま消えてしまうのではないか、と錯覚してしまう。
――ルビア。
心細さに、沈んでしまいそうになっていると。
「――――けて」
「……え?」
「――たすけて――く――」
人の群れの向こう。誰かが助けを呼んでいる。
皆、自分のことでいっぱいで聞こえてないようだ。
――放っておけない。
ユウは思い切って、群から抜け出した。
――ぶつかられ。
――蹴られ。
なんとか、人混みから抜け出した。
そこには、足を怪我して倒れてるオリバーがいた。
「ああ、君、えっとユウって言ったっけ?助けてくれ!」
「怪我の容態は?立てる!?」
「だ、ダメだ……立てない」
痛そうに、顔をしかめて彼は言った。
「分かった。肩を貸すから、怪我してない方の足で歩いて」
そう言って肩を貸す。
「出来るだけゆっくり行こう。人混みにぶつからないように」
「あ、ありがとう。ほんとに」
「良いから歩く!」
「は、はい」
――
なんとか、人混みを避けて城壁の中に辿り着く。
救護室はごった返していた。
救護員にオリバーを預けて、去ろうとした時――
「あ、あの!ありがとう!」
後ろからオリバーのお礼が聞こえた。
私は、手を振って別れる。
「……あれ、あの子……名前なんだっけ」
オリバーの呟きは聞こえなかった。
救護室から出た時、騒動は終息しかけていた。
空には、すでに1匹も魔物は飛んでなく。
試験会場を襲った魔物も、ほぼ討伐完了と知らせが届いた。
生徒たちは、安堵の顔で座り込み。
教師たちは、疲れた表情で生徒の誘導をしていた。
住人たちも、安心したように帰りに着く。
――終わった。
――そう。
――思った。
――北の空。
――影が。
――ひとつ飛んでいた。
――私は、何故かわからない、わからないけど。
――胸騒ぎがした。




