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よろしくお願いします。


「…このように存在強度とは」

 

 シュエ教授は、黒板に文字を書く

 

「1〜100まであり強度の多寡で寿命や魔力などが変わっていきます。」


 そう言って彼女は振り向く。

 

「コレは我々がどれだけ他者から認識されるか否か、でもあります。つまり――高い者ほど他者から記憶されやすいということですね。歴史的偉人、英雄、などがいい例です」

 

「つまり先生も?」

 

 そこでお調子者のオリバーが突っ込んだ。

 教室から笑い声が上がる。

 シュエ教授はメガネを掛け直して彼を見る。

 

「まぁ一応そうなりますね。私の現在の存在強度は72ですので」

「お〜」

 

 教室からどよめきが上がった。

 

「……ふん、72ごときで偉そうに」


 斜め前の赤髪が、小さくつぶやくのが聞こえた。


 しかし、その説明だと納得ができない部分がある。


 ――私だ。


 私が、このヴァルディア魔導学園に入学した時に計測された存在強度は――圧倒的な0。


 教授の説明通りなら、0なんて存在しないはずだ。

 それとも、ただ私が知らないだけ?


「……先生、存在強度が101以上や0の人は居るんですか?」


 ドキッ……

ちょうど疑問に思ってたことをルビアが質問した。


 チラッと彼女の背中を見るが何を考えてるのかわからない


「測定範囲外があるか、という質問ですね」


 シュエ教授はルビアのことを真っ直ぐみて答える。


「論理的に言うと、無い――です。少なくとも"観測されたことは一度もありません"」


 

 ――

 

 休み時間、ルビアが立ち上がってこちらを見る。


「ユウ――ご飯」


 そう言うだけ言って教室から出ていってしまった。

 

「あ、うん」


 急いでカバンから、2人分のランチを取り出して追いかける。


「あ、ねぇ、君!」


「――え」


 爽やかな水色が目の前をよぎる。――セイランだ。


「君さぁ……ルビアにいじめられてるの?」


 ――あまりにも予想外のことが起きると人間固まるらしい。

 

「あ、いやこんな聞き方じゃダメか……んと、僕はセイラン!友達にならない?」


 そう言って彼女は晴れのような笑顔で手を出してきた。


「え……と」


 私が返答しようとした時には遅かった。いつのまにか帰ってきていたルビアが、セイランの前に立ちはだかる。

 

「ちょっと、セイラン!ユウに何の用よ」


「なんの用もなにも、お前さぁ、その子を良いように使ってるんでしょ。ご飯だって自分の分持たせてるし」


 ルビアは鼻で笑う。


「ふっ……ユウはね、私がいないと何も出来ないの。むしろ感謝して欲しいくらいだわ」


 そういってルビアは胸を張った。


「う……わぁ、前からお前のこと嫌いだと思ってたけどますます嫌いになったわ」


「あらそう、気が合うわね。私もあんたのこと嫌いよ」


 私はこっそりため息をつく。入学以降この2人はたびたび衝突してきた。もう恒例行事と化してきて、同級生も眺めてるだけで止める様子はない。


「ハッキリ言うなぁ〜」


 と、セイランが言う。


「どの口が。そもそもあんた"お前"だとか"その子"だとか、もう夏になるのに同級生の名前すら覚えてないの?それで友達になろう?片腹痛いわ」


「それは……」


 セイランが目線が泳いで言葉に詰まる。チラッと私を見た。

 うん、分かってる。私の名前が分からないから、ルビアのことも名前で呼ばないんだよね。


「ルビア」


 はっ……とルビアは私を見る。


「言い過ぎだよ」


 一瞬の躊躇――だが。


「……ふん」


 セイランから目を逸らし、彼女は教室から出ていった。

 セイランはその態度に目を見張りながら見送る。


 パンパンッ!


「はい!おしまーいおしまいっ」


 そう言って艶やか黒髪を揺らしてサリカが手を叩くと、空気が弛緩した気がする。


「休憩時間も無くなっちゃうしね、君も――それで良いよね?」


 そう言って困ったような顔でサリカは私に言った。


「うん、それでいいよ。――待って、ルビア」


 ――


 食堂。


「よう、優等生」

 

 ルビアと一緒にご飯を食べてるとジャバリ主任講師が話しかけてきた。目はルビアを見ている。


 むっとした顔で彼女は、遠慮なく向かいの席に座ったジャバリ主任講師を睨め付ける。

 彼は自分の昼ごはんを食べ始める。


「なんですか?ヴァルディア魔導学園最強の主任講師様?」

 

「ふっ……口が減らないな」

 

「優等生ですので」


「おお!これはしてやられた!」


 そう言ってジャバリ主任講師はカラカラと笑う。


「――本題は?」


「おう。――東の先にあるリグナ市国との連絡が途絶えたらしい」


 声を潜めてジャバリ主任講師は言う。

 ――リグナ市国、森林の中の美しい都市として有名で、ルビアとも行きたいと話したことがある。


「へぇ……それで?」


 ジャバリは周りを見回して、もう一段階声を潜めながら続ける。


「戦争かスタンピードか、どちらにせよ普通は学生を動員などあり得ん。だがお前さんは数100年ぶり逸材だ、万が一も考えておけ」


「――主任講師ジャバリ様ぶり、の間違いでは?」


 ルビアは皮肉な笑みを浮かべた。


「なんだ……いつもに増して機嫌が悪いな。まぁ、いい。お前さんが動員されれば当然俺も対象になる。まぁつまりそういうことだ」


 ついでに教えてくれた、ということだろう。


「どうも」


「じゃあな、勉強励めよ」


 そう言ってジャバリ主任講師は立ち上がる。その際にチラッとこちらを見るが、首を傾げて去って行った。


 ――

 

その夜。私たちの部屋で。

 

「……ルビア」


「何よ」


「戦いに行くの?」


「まぁそりゃあね。なんせ私は天才よ?この私を必要としてくれるんだもの、役に立ってあげようじゃない」


鏡台の前に座ってたルビアは鏡越しに私を見た。


「なによ……私の心配してるの?」


「そりゃぁ……そうだよ」


「ふん、安心なさい。魔物だろうが敵国だろうが全部倒して見せるわよ」


 自信満々に彼女は言う。


「私は……魔物も人も殺してほしくないよ」


「え?なんか言った?」


「ううん……何でもない」


 かぶりを振り、シーツを頭まで引き上げる。


「おやすみ」


「なによ……変な子ね」


 ――


 だが、その次の日、そのまた次の次の日になってもルビアが呼ばれることはなかった。私は安心して、ある雨の日ルビアに話しかけた。


「そういえば、リグナ市国の話どうなったんだろうね?」

 

「――リグナ市国?」


「――そんな国、聞いたことないわよ?」


 雨が――しとしと降っていた。


 図書館で地図を調べても。勇気を出して他の人に話しかけても結果は同じだった。


 リグナ市国など最初から存在しないかのように、


 ――消えていた


 

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