追放された共感増幅者
──勇者召喚と、最弱の烙印──
光に吸い上げられるような浮遊感が、碧斗の鼓膜を震わせた。
目を開けると、そこは白大理石の床がどこまでも続く王城の大広間。
巨大なステンドグラスから射し込む光が、五つの影を床に落としていた。
影の中心にいたのは、五人の日本人。
会社帰りのスーツ姿、学生服、作業着、ジャージ──そして碧斗。
「……召喚、された?」
混乱すら追いつかないまま、壇上の玉座から、王が口を開いた。
「異界よりの来訪者よ。我らが世界を救う『五勇者』として招いた」
五人の中にざわめきが走る。
だが、すぐ隣に立つ軍人風の男が、厳しい声で告げた。
「まずはスキル鑑定を行う。勇者の力を見極めよ」
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◆一人目——圧倒的チートの轟き
屈強な鑑定士が水晶玉に手をかざし、声を響かせる。
「一人目、佐久間 迅──スキル『魔将殺し(デモンスレイヤー)』!」
大広間がどよめく。
たちまち騎士たちの視線が輝き、佐久間は驚きつつも得意げに胸を張った。
「お、おお……なんか強そうだな」
「勇者候補一名、確保!」
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◆二人目──治癒の奇跡
「二人目、早乙女 凛──スキル『大治癒』!」
「嘘……そんな力、私が?」
「素晴らしい!国宝級だ!」
王も立ち上がるほどの大歓声。
ここが異世界であることを強制的に理解させる光景だった。
⸻
◆三人目、四人目……
「剛腕」「竜気操作」「千里眼」
役に立ちそうな名前が次々と並び、歓声が上がり、期待が膨らむ。
残るは、風間碧斗ひとり。
胸が高鳴るわけではなかった。
ただ、自分の順番が来たことを知って、静かに呼吸を整えた。
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◆そして、最弱と呼ばれた男
「最後、風間 碧斗——」
鑑定士は淡々と、何の感情も込めずに呟いた。
「……スキル『共感増幅者』」
「…………え?」
「効果は……ふむ。他者の感情を“理解できる”……以上」
大広間が静まり返った。
沈黙が、痛いほど冷たかった。
「た、ただの……共感能力……?」
「そんなの、スキルじゃないだろ……」
「感情を読んでどうするんだ?戦えるのか?」
侮蔑、落胆、嘲笑。その色が波のように押し寄せてくる。
――碧斗には、それが“視えて”しまった。
青白い失望。濁った黄色の侮蔑。
背後から刺すような薄紫の恐怖。
(……これが、俺の能力……?)
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◆王の判断——追放
王がため息をひとつ落とした。
「――役に立たぬ。
風間碧斗、そなたに勇者の資格はない」
「ま、待ってください!まだ他の効果が──」
「鑑定士が最弱と断じた。城で食わせる余裕はない」
騎士たちが、淡々と碧斗の肩に手をかけた。
「外門まで案内します。
以後、城への立ち入りは禁じます」
あまりに淡々とした処理。
まるで不要物を捨てるかのような扱いだった。
四人の勇者候補が見守る中、碧斗は城外へと引きずられていく。
誰も声をかけなかった。
誰も呼び止めなかった。
ただ、背中に刺さる“安堵”や“軽蔑”の感情だけが、冷たくまとわりついていた。
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◆城の門前——たった1人で放り出されて
巨大な門が音を立てて閉じられ、
石畳の地面がじんと冷たく足裏を痺れさせた。
「……俺だけ、いらないってか」
笑おうとして、笑えなかった。
胸の奥が、ぎしりと軋む。
だがその瞬間、碧斗の中で、何かが確かに動いた。
──城内から漏れた感情の残滓が、見えたのだ。
恐怖。
焦燥。
悲嘆。
怒り。
四人の勇者が選ばれた瞬間とは思えないほど、
暗い色ばかりがうごめいている。
(……この国、何か隠してる)
このスキルは「無価値」じゃない。
ただ、まだ誰もその意味を理解していないだけだ。
碧斗は拳を握った。
「いいさ……追放するなら勝手にしろ。
その代わり――俺は俺のやり方で、生き残ってやる」
その決意に応えるように、
胸の奥で微かに“共鳴音”が響いた。
これが、後に
“人心を見通し、魔王すら揺るがす心象の勇者” と呼ばれる男の始まりだった。
共感増幅者のスキル
◆【感情感知】
■他者の“感情の色”が視える
•周囲の人間・魔物などの感情が色として視覚化される。
•感情の強さや種類(恐怖・怒り・悲しみ・狂気など)がわかる。
•嘘や隠し事には“濁り”が入るため見抜ける。
•魔物や敵対者の“敵意・殺意”も前兆として視える。
◆【感情共有・共振】
■相手の感情を自分に“流し込み”、理解度を爆発的に高める
•相手の痛みや恐怖を“追体験”し、意図や背景を深く読み解く。
•心を開かせる、懐かせる、怒りを収めるなどの効果が強い。
•ただし、相手の負の感情が強いほど精神負担が大きい。
◆【感情増幅】
■相手の感情を“増幅して押し上げる”ことができる
•恐怖を勇気に変える
•絶望する者に希望を与える
•迷いを断ち切って決断力を与える
•士気を大幅に強化する
◆【感情吸収】
■周囲の負の感情を“吸い取り”、自分の力に転換する
•魔物の殺意や人の怒りを吸収して弱体化させる
•発動中は碧斗の精神に大ダメージ
•吸収した感情は一時的に“自分の内側に燃える炎”となる
•これを攻撃的な行動へ転換することで、戦闘力が跳ね上がる
◆【感情誘導】
■相手が“自発的”にそう思ったかのように、感情の向きを変える
•憎悪を鎮める
•敵意を別方向へそらす
•葛藤を整理して決断させる
※直接「命令」することはできない
◆【群体共感】
■多数の感情を同時に読み取り、場の“空気そのもの”に干渉する
•小隊・村・町など、集団の空気を操れる
•戦争や祭りなど、大規模イベントで力を発揮
•使用時の負荷が極めて大きい
◆【精神干渉耐性】
■相手の攻撃的な感情や精神攻撃を“遮断する”
•殺意・怒り・狂気などの影響を軽減
•精神汚染や呪いの耐性が高い
•魔王級の存在が発する“瘴気”にも対抗できる可能性
◆【深層共鳴】
■“その者の核心”と触れ、心の奥の願い・恐怖・秘密を読み取る
•嘘が通じない
•トラウマや闇を抱えたキャラとの絆を深くできる
•使いすぎると碧斗自身の心が壊れかねない危険な技




