表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

風間、動く

放課後の教室は、誰もいないのに妙にざわついて感じる。

空気が湿っている気がするのは、俺のせいか――それとも。


「よ。来てくれてありがとう」


その声は、窓辺の逆光から現れた。


風間大我。

この学校一の陽キャにして、恋愛イベントの仕掛け人。

そして……今の俺の静寂を破壊している張本人だ。


「何の用だよ、風間」


「話したいことがあるんだ。……いや、違うな。ちゃんと聞いてもらいたいんだよ、真壁悠」


風間は、珍しく真面目な表情をしていた。

いつもの軽薄さが、今だけは見えない。


「お前、ほんとに恋してないのか?」


唐突な質問だった。


「は?」


「白川詩音。あの子を、好きじゃないって言えるのか?」


「……俺は、関わりたくないだけだ」


「違う。関わりたくないって言いながら、お前はいつも詩音を見てる。誰よりも」


ぐっ、と胸の奥を刺されたような感覚。


風間はゆっくり近づき、俺の正面に立った。


「俺はさ、恋愛ってのはゲームみたいなもんだって思ってる。仕掛けて、動かして、燃え上がらせる。それが面白い」


「……人の気持ちを遊ぶな」


「それは違う。俺は本気だよ。だからこそ、恋愛っていう舞台をちゃんと整えてやりたいんだ」


風間の目は、冗談を言ってる目じゃなかった。


「でもな。ひとつだけ、俺にできないことがある」


「……何だよ」


「ガチになることだ」


風間は、ポケットから一枚の写真を出した。

そこには、中学時代の彼と、ある女の子が並んで写っていた。


「昔さ、初めて本気で人を好きになった。だけど、それに気づいた時には、もう遅かった」


「……」


「だから俺は、恋愛を仕掛ける側になった。自分が傷つかないように、舞台の外に立ったんだ」


風間の声が静かになる。


「けどな、真壁。お前は今、舞台の上にいるんだよ。白川詩音も、天野理子も、如月千夜も……みんな、お前を見てる」


「……俺は、ただ静かに暮らしたいだけだ」


「それは言い訳だろ」


風間の言葉に、俺は言葉を詰まらせる。


「本当は気づいてるんだろ? 人と関わるのが怖いくせに、誰かに必要とされることが嬉しいって」


「……っ」


まるで、全部見透かされているようだった。


「……俺に、何ができるんだよ」


ようやく絞り出した声に、風間は笑わなかった。


「正面から向き合うこと。それだけで十分だ」


「向き合って……どうなる?」


「分かんねえよ。でも、逃げ続けるよりはマシだろ」


 


====


 


夜、俺はSNSを開いた。

そして――見つけてしまった。


白川詩音の別アカウント。

そこに投稿された短編小説は、今も拡散され続けている。


【撲滅委員会の会長と、嘘から始まる本当の話】


コメント欄に、こう書かれていた。


「きっと、あの子はもう自分の気持ちに気づいてる。だけど、まだ答えが怖いだけ」


詩音……お前、これって。


「……返事を、しなきゃな」


風間の言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。


舞台の上に立ったら、逃げられない。


俺はまだ、何も知らない。

でも――知りたいと思った。


詩音のことも。理子のことも。千夜のことも。

そして、俺自身のことも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ