陽キャ幼馴染、急接近
「おはよー、真壁!」
朝のHR前、俺の机にどかっと音を立てて座ってきたのは、天野理子だった。
「……そこ、俺の机なんだけど」
「知ってるー。あんたが座るより先に私が座ったから、今は私の席ー」
理子はニヤニヤと挑発的に笑う。
この女、朝からテンションが高すぎる。
「で、何の用だよ」
「ん? いや別に? ただ最近のあんたが気になってさー」
「俺が?」
「そうそう。だってさ、あんた最近……白川詩音と仲良くない?」
うっ。
急所を、思いっきり突かれた。
「仲良くって……別に。偶然席が近いだけだし」
「ふーん?」
理子は机の上で肘をつき、俺の顔をじっと見てくる。
「詩音ちゃん、けっこう人気あるんだよ? でも男子とあんまり喋んないじゃん。そんな中で、あんたとだけ妙に喋ってる。しかも――肝試しで手繋いでたでしょ?」
「なっ……! 見てたのかよ」
「そりゃ見るでしょ。てか、あれはイベント? それとも……ガチ?」
「ガチなわけないだろ!」
焦って声を荒げた俺に、理子はクスクスと笑いながら言った。
「はい、今の動揺いただきましたー。怪しい怪しい。詩音ちゃんって、恋愛とか苦手そうだけど、もし気持ち動かされてるとしたら――ちょっとヤバいかもね?」
理子は、昔からこういうタイプだ。
悪気なくズケズケ入ってきて、核心を突いてくる。
昔は、それが苦手だった。
でも今は――なんか、ちょっとだけ懐かしい。
「……お前、相変わらずだな」
「何が?」
「人の気持ちをグサグサ言ってくるとことか」
「うん? 別に傷つけようとは思ってないんだけどね」
「だろうな。そこが厄介なんだよ」
「お褒めに預かり光栄です、真壁先輩」
ふざけた口調で言いながらも、理子の表情が一瞬だけ柔らかくなった気がした。
でもそれもすぐに消えて、またいつもの陽キャスマイルに戻る。
「じゃ、とりあえず今度のレク、よろしくね。あたし、アンタとペアだから」
「は?」
「仮想カップルクイズ大会、アンタと私。もう決まったから」
そう言って理子は、俺の机の上にペア表をドンッと置いた。
そこには、確かに――
「No.3 真壁悠 × 天野理子」の文字が。
「待て待て待て! 俺はそんなの聞いて――」
「そういうの、風間に言って。あいつが、配慮して組んだって言ってたから」
「配慮の意味を根本的に履き違えてるだろあいつ……!」
「じゃ、よろしくね。アンタがどんな仮想彼氏になるか、楽しみにしてるから」
そう言って去っていく理子の背中は、なんというか――
無敵だった。
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昼休み、図書室。
白川詩音が、本棚の陰からそっと顔を出した。
「……こんにちは、共犯者さん」
「おう、白川。……詩音って呼べばいいか?」
「どちらでも。私は真壁くんのままが、落ち着くけど」
「じゃ、俺も白川でいく」
小さな会話でも、なんだか照れくさい。
もしかしたら、昨日の肝試し以来、俺たちの距離が少しだけ縮まったのかもしれない。
「でさ……次のクイズ大会、俺と天野がペアなんだとよ」
「……そう。理子さん、よく話しかけてるものね」
詩音はほんの少しだけ、視線を逸らした。
その横顔には、わかりやすくモヤモヤが漂っていた。
「白川、もしかして……嫌だったか?」
「……べつに。イベントなんでしょう? ただの学園行事の一環でしょ?」
そう言うけれど、その声にはいつもの理性がなかった。
詩音も、揺れている。
イベントと本音の境界が、どんどん曖昧になっていく。
それは、俺も同じだ。
風間の仕掛けが成功してるのか、俺たちが壊れてきてるのかはわからない。
でも――
このまま行ったら、俺たちは本当に、ただの共犯者じゃいられなくなる気がした。