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誰かの想い、誰かの答え

月曜の朝。

ホームルームの時間、教室には妙な緊張感が漂っていた。


教壇の前には、風間大我。

そしてその手には、一通のラブレター。


「さて、ラブレターコンテスト。優勝作品を――朗読しまーす」


「えっ、読むの!?」


「誰が書いたかって分かるの!?」


そんな声を無視して、風間はにっこり笑った。


「作者の名前は伏せてある。だけど、内容から、きっと伝わるよ」


 


====


 


『――恋なんて、必要ないって思ってた。

それは、誰かに期待しなければ傷つかなくて済むから。

誰にも寄りかからなければ、誰にも壊されないって思ってた』


 


読み上げられる文字に、教室は静まり返る。


 


『でも、ある日。

「空気のように生きたい」って言った君が、

空気なんかじゃなくて、私の心の中にずっといることに気づいた』


 


真壁悠は、顔を上げた。

詩音がそっと、俯いた。


 


『私は、恋が怖い。

失うのも、期待するのも、拒絶されるのも。

でも――君とだったら、ちょっとだけ信じてみたい』


 


言葉は淡々と、それでいて静かに熱を帯びていた。


 


『だからこの手紙は、告白じゃない。お願いでもない。ただの――本音。私は、君に出会えてよかった』


 


風間が読み終えた瞬間、教室はしんとしたまま、誰も声を発しなかった。


やがて誰かが拍手を始め、それが静かな波のように広がった。


 


====


 


放課後。屋上。


詩音はひとり、風に髪をなびかせて立っていた。


その背後から、真壁が静かにやって来る。


「……来てくれたんだ」


「うん。あれ、詩音の書いたやつだろ」


詩音は小さく頷いた。


「匿名にしたのに、やっぱりバレた?」


「文章のクセ、知ってるし」


「……そっか」


しばしの沈黙。


そして、真壁はゆっくりと口を開いた。


「俺さ、最初はただ、平穏に過ごしたかっただけなんだよ。

恋愛とか、そういうの、面倒だし、怖いし。

でも――」


彼は詩音の方を向く。


「でも、詩音とだったら、考えてみてもいいかなって。そう、思った」


詩音の目が、少し見開かれる。


「だから……これも告白じゃない。ただの報告」


そして、そっと手を差し出した。


「これからも、撲滅委員会一緒にやろう。……今度は、もうちょっとだけ素直に」


詩音の目に、うっすらと涙がにじむ。


「……うん。委員会、続けよう」


そう言って、そっと手を握り返した。


 


====


 


その頃――下の階の廊下。


天野理子は、柱の影から屋上を見上げていた。


「……やっぱ、負けたな」


手の中には、自分が出した手紙の控え。


だけど、悔しさよりも、不思議と清々しい気持ちの方が勝っていた。


「詩音、泣いてんじゃん……バカだな」


それでも笑っていた。


「次は、ちゃんと好きって言えるようになってから勝負する。覚悟しなさいよ、真壁」


 


====


 


一方、風紀委員室。


如月千夜は、何かを考え込むように、机に座っていた。


目の前には、自分の書いた手紙のコピー。


『これは恋愛ではありません。たぶん。おそらく。恐らく……未確定です。』


「……感情、という現象。まだ、理解できていません」


でも――彼女の頬は、ほんの少し赤かった。


 


====


 


そして、物語の語り手であり、黒幕のひとりでもある風間大我は――


ひとり校舎裏で、携帯をいじっていた。


「うんうん、SNSでもラブレター事件がバズってるね。

いいね、エモい」


画面には『#撲滅委員会の真実』『#陰キャがモテると世界が揺れる』などのハッシュタグ。


「……さて、第2学期はどうしようかな。夏恋祭とか、やっちゃう?」


彼は誰にともなく微笑んだ。


「恋は、終わらない。仕掛ける限り、永遠に続く」


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