最後のミッション
朝の教室。風間大我の宣言は、まるで爆弾のように炸裂した。
「というわけで、本日より『ラブレターコンテスト』を開催しまーす!」
ざわつくクラス。
何が始まるのかと、生徒たちが一斉に顔を上げる。
「え、なにそれ」
「手紙?ガチ?」
「書くの?」
「読むの!?」
「キモイ!」
そんな声が飛び交う中、風間は悪びれもせずに続けた。
「匿名で書いて、僕が回収します。
内容だけで勝負! 一番心を動かされた手紙を書いた人が、優勝!」
「優勝者には?」と誰かが聞く。
「うちのクラスの『恋愛キング・クイーン』に認定されるよ! …あ、もちろん、断る権利はあるけど?」
ざわつきがさらに広がる中、真壁悠は静かにため息をついた。
「……またかよ」
風間の仕掛けは、いつだって理不尽だ。
けれど今回ばかりは――逃げられない気がしていた。
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その日の放課後、図書室。
「……書くつもり?」
詩音がぽつりと聞いた。
真壁は机に突っ伏したまま、答えない。
「私は、書いたよ。もう、提出した」
「……そうなんだ」
静かな沈黙が続く。
「名前、書いてないけどね。
でも、伝わったらいいなって……思ってる」
「そっか」
「ねえ、悠くん」
詩音は視線を落としたまま、呟くように言う。
「ラブレターって……気持ちを書くものだよね?
頭じゃなくて、心で。相手の反応とか考えずに」
「……それが一番難しいんだろ」
真壁の言葉に、詩音は微笑んだ。
「うん。だから私は怖い」
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一方その頃――風紀委員長・如月千夜は、自室で悩んでいた。
机の上に置かれた封筒。
そこには、ただ一言だけ手書きされていた。
『これは恋愛ではありません』
そのくせ、宛名欄には「真壁悠」と書いてある。
「……なんですかこれは」
千夜は自問自答していた。
「感情というのは、こうも非論理的で、制御不能で、非効率で、支離滅裂で……」
言いながら、顔を赤くしている。
「まったくもって、風紀に悪影響です」
それでも――封筒は、翌朝の提出箱にしっかり入れられていた。
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そして天野理子。
彼女は夜、自分の部屋でスマホのメモ帳に何度も書いては消していた。
『真壁へ』
『うざいくらい真面目で、うざいくらい鈍くて』
『でもたまに優しくて、たまにカッコつけて』
『……好き、かもしれない』
『いや、ちげーし』
『……うん、好きなんだと思う』
「……バカみたい」
顔を赤くしながら、何度もスクショを撮って保存しては、全部消す。
そして最終的に、短い手紙を書き上げた。
『お前のこと、ずっと気になってた。でも詩音のことも、気にしてた。だから――ちゃんと負けてやる』
そう書かれた封筒を、彼女はポストに投げ込んだ。
「次は、正々堂々勝負だからな……バカ壁」
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そして――提出最終日。
教室の中央に設置された『恋文BOX』には、十数通の封筒が入っていた。
その中で、ひときわ丁寧に折り畳まれた一通を、風間が手に取る。
「……これだな」
彼は誰にも見せず、封を切った。
数秒間の沈黙。
そして、思わず笑みが漏れる。
「……最高だよ、真壁。君、気づいてないんだろうけど――
もう、君は十分に、ヒロインたちの物語の中心なんだよ」




