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ある能力についての些細な見解

 学祭も終わり、季節は十二月へ。

 今年もあと一ヶ月を切ったある日、久しぶりに講義が終わって時間の空いた俺は、ストーブの熱で満たされたダン考の部室でくつろぎの一時を送っていた。


「学祭以来に顔を出したと思ったら、随分スマホを睨めっこが多いな。彼女か?」

「ええまあ。……ああ、充電しないと。最近切れるの早くなってきたんすよね。冬だからかな?」


 最近新発売したらしいイタリアで発見された魔剣のレプリカを磨きながら、俺へと坂又(さかまた)部長。

 会話の相手はもちろん夕葉(ゆは)先輩なので肯定しつつ、バッテリー残量が残り一割程度になってしまっていたのでケーブルに繋いで机に置いておく。


 まあ確かに、夕葉先輩と付き合いだしてから使う頻度が増したのは事実。

 毎日泊まるのはあれなので家に帰ったりしているのだが、その際は必ずと言っていいほど寝る前に電歪で話しているので、スマホのバッテリーが切れるのが早いと感じてしまうのは気のせいではない。

 

 とはいえ、先輩のせいというわけでは決してない。

 何せ内容量的には全盛期の八割あるかないか。大学入学時に母親に買ってもらったものでまだ三年行かないくらいだが、ダンジョン内での使用含め、本体もそこそこ酷使しているので元々限界は近そうだったのだ。


 そろそろ買い換えかなぁ。

 日常使いしかしないから細かな機能やスペックなんて必要ないけど、スマホを妥協するって行為が嫌だから最低でも二世代前、マスカット社のユーフォン14辺りにしたいんだが……それでも普通に高いんだよなぁ。どうしようかなぁ。


「……律儀なことだ。俺はそんな風に、女優先で動けないだろうからな」

「部長の方が上手くやれると思いますよ。……そういえば、部長は彼女いたことあるんですか?」

「さあ、どうだかな。好きに想像しておけ。それより、あの阿呆が来るまで潰せる面白い話題はないか?」


 そういえば女性関係と言えばあのヤリチンチャラ男こと(かのう)先輩ばかりで、部長の恋愛事情は聞いたことがない。

 そう思った途端興味が湧き、尋ねてみたがどうやら相当に話したくないのか、部長は露骨に話を変え、更に新たな話題を求められてしまう。


 意趣返しでもありそうだが困る。そんないきなり振られても、話題なんて……あ、じゃあせっかくだから一つ知恵をお借りしてみようか。


「えー、あー……じゃあ部長。もしも時間を止められる魔法(マジック)があったとして、ダンジョンでどこまで通用すると思います? この前そういう能力のある漫画読んだから、気になってるんですよね」

「ほう、即興にしては悪くない議題だ。……そうだな。結論から語るので言えば、時間停止の性質、発生条件、制限時間で評価は分かれる。そんな所だろうか」

「性質?」


 我ながら雑な導入だなと心の中でため息を吐きながら、それでもらしい話題を提示してみる。

 すると部長はやるなとばかりに小さく頷き、そばに置いていたコーヒーカップに口を付けてから、そういう能力を持っている俺が予想していたよりもずっと遙かに高度な回答をしてきた。


 ……効果や制限時間は分かるとして、法則や性質とはどういう意味だろうか。


「例えばこれは俺の好きな漫画の話だが、同じ漫画に三人の時間停止能力者がいて、二通りの法則が登場していたりする。一人は純粋に時間を止めるタイプ。余計な理屈はなく、もっともシンプルでスタンダードなタイプ。一つは今と次の一瞬の隙間を動くタイプ。そしてもう一人は光よりも早く動くことで時間を超越するタイプ。個人的に時間停止と区分していいのか疑問だが、まあ一番扱いにくいのはこれだろうな」


 つらつらと、実に簡単に語り出す部長に頷くが、実はもうこの時点で微妙について行けてない俺がいる。

 時間停止は時間停止。能力所有者だからかもしれないが、そんな浅い結論だけで生きてきたから、時間停止に種類や派生があるなんて考えた事もなかった。

 その例に則れば、俺の時間停止はどれだろうか。多分一つ目の理屈なしで止めているタイプな気がするけど、唯一の観測者が俺で答えは迷宮入りだな。駄目だこりゃ。


「これらはどれも時間を止めるという同じ結果を引き起こすが、そこに至るまでの経緯が違う。実際その作品内で違う能力なのでは? と疑問が提唱されていたりするほどだ」

「……同じ時間停止なのに、違う能力?」

「時間を止める能力。時間よりも早く動く能力。時間の合間へ潜る能力。言い方を変えれば、言葉遊びを交えれば、能力など無数に存在する。現代における魔法(マジック)だって名付けは本人の感覚であり、能力の真価を表すものではないのだから、名前にたいした意味などないんだよ」


 ポカンと口をあんぐりと開けてしまう俺を見て、部長はやれやれとばかりに首を振ってくる。

 部長からしたら別になんてことのない、ちょっとした蘊蓄レベルなのだろうが、俺からすればもう大学の講義と大差ない頭を使わされている。

 おかしいな。実際に時間停止を持っている俺の方が遙かに知識量は多いはずなのにな。普段如何に適当に、便利な家電くらいのノリで使ってるか突きつけられているみたいでめげちゃうな。ぐすん。


「……そうだな。ここで一つ、大学生らしく下世話で分かりやすい例でも挙げるとしよう。なとめる、お前は時間停止モノのAVを見たことがあるか?」

「何です藪から棒に? えーと、まあなくはないですよ。一割の本物にはまだ出くわしたことないですけどね」


 自分から話を振っておいて沈没しかけな俺を流石に見かねたのか、部長は先ほどまでの話から一気にIQの下がる問いをしてくる。

 AV。アダルトビデオ。紳士の嗜み。九割偽物で、一割が本物とされているあのジャンル。

 俺とて男なのでなくはないし、エロさより単純な興味でマイナージャンルに触れた過去もあるから知らないとは言えない。


 とはいえあんなのは所詮作り物。

 この世のどこかにあるという一割の本物を掘り当てられるわけもなく、背景の車や犬が動いているよくあるやつしかないので、何が関係あるのかいまいち察しきれない。


 ……今思いついたけど、俺がそういう動画を撮れば、時間停止ものの一割は眉唾なホラじゃなくなる……いや無理か。動画を見た人は時間停止を観測出来ないし、ただの動画なのは変わりないもんな。

 実際童貞を卒業したから思えるようになったが、せっかくの女体でもレスポンスがないと何にも面白くない。

 セックスはコミュニケーションだといつか叶先輩は言っていたが、業腹ながら同意せざるを得なく、当然アブノーマルなことなど頼めようもない。世のカップルはどうやって発展させてるんだろうな。


「ま、所詮作り物でしかないマイナー界のメジャージャンルだが、ここで注目したいのは固まっている振りをしなければならない女優のエロさではなく、人体に快感や衝撃……つまり感覚や接触の蓄積がされるという点だ。停止した時間の中で石ころを一万回叩けば、石は一万回分の衝撃を同時に得て砕けるのか。それとも一回分のみが受容されるのか、はたまた干渉さえ許されないのか。とめるはどう思う?」

「あ、えーっと……。ほら、最近話題になったダンジョンの死神! あれも時間停止能力で色々やってるなんて説が有力ですよね! 一気にバラバラって、あんな感じだと思います!」

「……ふん、あの偽物か。あれは所詮贋作、ホムラや斬りカタナの映像で起きた現象とは根本から別物でしかない手品もどきでしかない。イメージとしては、凡そそんなものだろうがな」

 

 急に振られ、咄嗟にこの前の事件を思い出して答えてみたが、どうやら部長は気に入らなかったらしく。

 心底面白くないかのように、答える答えを間違えたと一目瞭然なほど、不機嫌そうな顔で頬杖を突いてしまう。


 まあ確かに人一人殺していない、猟奇殺人鬼ですらない偽物だったけどさ。

 それにしたって、何か不機嫌になる要素あった? 部長たまに変な地雷あるけど、一年の付き合いでも何がそれなのかまったく分からなくて困っちゃうよ。


「或いは法則などなく、己が基準のみで解釈されている類もあるが……まあそれは時間停止というよりは世界停止に近いのだろうな。先ほど挙げた例の一つが作中後半でそんな能力だと判明して大炎上……なんて愉快な出来事もあった。ふふ、俺としては上手い切り崩しだと思ったがな」

「基準?」

「そうだな……でまた一つ、解釈について、お前に質問しよう──」



「ちーっす! いやー、実はさっき良い感じのお姉さんからナンパされちゃってさぁ! 困っちゃうよねぇ。あー寒ぃ、お湯沸いてっかなぁ」



 コーヒーをゴクリと喉へと流し込んで、少しばかり機嫌を直してくれたらしい部長の質問を遮るように、部室の扉が大きな音を立てて開き、ズケズケと自宅のような気軽さで入ってくる茶髪の男。


 場違いで、喧しくて、どうしようもないほどいつも通りな(かのう)先輩。

 遅れてきた彼に水を差された部長が「注げ」と命令すれば、ダウンを抜いた先輩は実に淀みない手つきであっという間にコーヒーのおかわりが準備させ、自分の分を両手で持ちながらストーブの前に腰を下ろした。


「非常に遺憾だったが、まあタイミング的にはちょうどいい。二人に質問だ。箸、傘、しゃもじ。今挙げた三つの中で、棒と呼べるものはどれだ?」

「あー暖けえ……やだなさかさんー、棒は切っても割っても棒っすよ。あ、こんな答えしか返せない棒はボーッしてる……なんちゃって?」

「冬の寒さに抱かれて死ねと、思わず吐き捨ててやりたいくらいだ」

「それ言ってるようなもんでしょ。まったくもー」


 部長へ振り向くことなく、両手を翳して暖を取りながらくだらないギャグをかます叶先輩。

 案の定ばっさりと切り捨てられながらもまったく気にすることなく、ストーブの熱で己を満たしながらコーヒーに舌鼓を打っている。


 三人しかいないサークルで言うのもあれだが、相変わらず恐ろしいほど馴染むのが早い人だな。

 こういう人こそ社会では成り上がっていくのだと考えれば、やはり世の中はコミュ力こそが大部分を占めるのだろうと痛感させられる。彼女が出来たとて、俺は未だその辺に縁がないから羨ましいね。


「そうだなぁ。真面目に答えるとしたら、箸だけなんじゃないっすか? とめるはどう思う?」

「しゃもじと傘は違うとして、まあこの中で挙げるのなら箸だけじゃないですかね。正解ですか?」

「正解であり外れかもしれないし、正解でも外れでもないかもしれない。今回の問いの答えとして、一番的を射ているのはこの答えだ」


 はあ? ……はあ、どういうこと?


「ある漫画の話をしよう。その作品には鉛筆を棒の形であれば自在に変える能力者がいた。その際、フライパンに変えることも出来ていたんだが、要はそういうことだ」

「……いや、どういうことです?」

「あー、要は本人の解釈次第でしかないよ……的な?」

「はるにまとめられるのは少し癪だが、まあ概ねその通りだよ。棒か否か、止まった時の中で動くか否か、それは能力者の定義次第でしかない。もしも物体ごとに違いが生じるとしたら、それは無意識に止まった時間の中はそういうものだと思い込んでいるからなのだと、そういう話だ」


 分かるようで分からないような、けれども何となく締めてくれる部長。

 能力者の定義次第。お茶を濁したみたいな、とりあえずの答えとしてうってつけな、適当と言えよう結論。

 けれど俺にはどうもしっくりくる。よく分からないを肯定してもらえたみたいな、そんな腑に落ちた感覚がすっと胸に収まってくれた。


 そういうものはそういうもの。

 俺が時間を止めた際の世界も、動くものと動かないものが曖昧ではあったが、全ては世界ではなく俺自身の問題。

 それが正しいとは言えないけれど、なるほど、確かにその通りかもしれない。魔動ツルハシは動いてスマホやパソコンは動かないの、本当に分からなかったからな。逆に納得だ。


「あれ、ということは、思い込みで能力の幅はいくらでも広がるってことですか?」

「そういうタイプに限り、更には逆も有り得るがな。そも真に止まった時間の中であれば、仮に思考は出来たとしても、移動は疎か呼吸さえままならんはずだ。この世に存在する全ては、何かしらでも動くことで確立されている。よって時間が止まっているのなら音も光も温度もない、完全なる無の世界のみと幻想に唾吐く派閥さえある。人の夢をを否定するのはいつだって現実というのはある種皮肉めいていて、笑えるものだ」

 

 そう答えた部長は大げさに両手を上げ、呆れを押し出すように鼻を鳴らして結論付ける。


 能力は使いようなんて創作ではよく聞くが、知り尽くした気になってる阿呆の足元ほど掬いやすいもの。

 例え時間停止や魔法なんて特別なものが絡まずとも、自分の能力との向き合いは一生かけてもなお新しい発見が生じるものなのだと。

 別に何か変わるわけでもないだろうけど、これを機に少し改めていければより便利に扱えるのかもな。多分。


「ほーほー、へーへー……で、とめるぅ。何かさかさん語ってるけど、これ結局何の話なん?」

「時間停止能力について、適当な世間話です」

「あーなるなる、時間停止ねえ。確かに映える能力っすけど、正直ダンジョンだと地味なんじゃないっすかね?」

「ふむ、その心は?」

「だって時間停止って数秒ぽっちが定番じゃないっすか。そんな短い間自由に出来た所で、元々勝てないダンジョン生物へ一発逆転なんてまず無理。ちょろっと止められたって、結局逃げられるくらいしか使い道ないよなって……違う?」


 違わない。というか、実際その通りだと思う。

 俺の時間停止も一睡しても解かれないほど青天井だから便利なわけで、数秒止められる程度じゃちょっと攻撃を避けられたらいいなってくらいの能力にしかならない。

 そもそも止まった時間の中の時間経過ってなんだよ。時間が止まっているのに、どういう基準の数秒が働いているんだよ。誰か教えてくれないかな。


「ああでも、人助けなんかには役に立ちそうっすよね。ほら、窮地からの間一髪みたいな?」

「そうだな、確かに最も身近で現実的な案だ。だが恐ろしいほどシンプルで致命的な問題もある。つまりは人間をどう運ぶかという点だ。時間の止まった世界において、止まった人間は死体と同じ数十キロの歪な形の置物になるはず。それを数秒で運び切れる自信があるのなら、人命救助も不可能ではないだろう」


 あーね。人は運ぶの辛いよね。あれ結構きついよね。動かないからマシだけど、やっぱり地獄だよ。


「……どしたんとめる、さっきからそんな素人は黙ってろみたいに頷いちゃってさ」

「あ、いや、やっぱりちゃんとしてるときの叶先輩はちゃんとしてるなーって。ははっ」

「ほーん、へんなとめる……ま、とめるが変で小生意気なのはいつも通りか。じゃあ問題ないな」


 流石は悪評込みでも数多の女を口説くに至る観察力か、こっちを訝しげに見つめてくる叶先輩。

 慌てて誤魔化すようにでまかせを言うと、少し釈然としなさそうではあったが、そういうものかと納得しながら立ち上がってストーブから離れていく。

 

 あー危なかった。

 叶先輩だから良かったけど、まさかこんな所でそんな指摘されるとは思わなかった。今度から気をつけよっと。

 

「しかしまータイムリーっすねさかさん。俺ちょうど買ってきたんすよ。時間停止もののAV。よっ、タイミング完璧すぎて逆に怪しい男!」

「冬の雪に埋もれてしまえ。そもそも買うのは構わんが、何故大学に持ってくる? ブルーレイか?」

「VHSっす。奥ゆかしさ百万点、由緒正しきレトロ趣向と目が合っちゃったって感じ。運命の出会い的な?」

「そうか、ならちょうどいい。意外と弾んだ小話の締めとして、ちょうどビデオデッキのあるこの部屋で鑑賞会でもするとしようか」


 叶先輩が見せつけるように袋から取り出したのは、黒くて四角い何となく見覚えのある何か。

 確か小学校だか中学校だかの授業で習ったような、そんなようなものを見た部長はやれやれと首を振ってから立ち上がって機材の準備を始めてしまう。


 ……ところで、ブイエイチエスってなんだろ。ビデオじゃないのかな。


「なあなあとめる。葵ちゃんとは順調なん? ほら、夜とか初めてばかりで苦労してない?」

「セクハラですよ。……まあ、色々と、ぼちぼちです」

「そうだよねー、今が一番ラブラブな時期だもんねー。はー、とめるの初々しさが消えていく今に俺は悲しくなってくるねぇ。巣立つ雛鳥をハラハラと見守る親鳥の気分だわ」


 部長の準備を待つ間、だる絡みしてくる叶先輩。

 誰目線だと言いたくなるほどの上から目線に単純にイラッと来そうになるも、その前にガバリと勢いよく肩を組んでくる。

 

「ま、困ったらこのはる様に話してみんしゃいな。こと女付き合いに関しては、上も下もこのサークルで断トツ一番間違いないからよ! あ、何なら今日ボーイズトークしに飲み行っちゃう?」

「まあいいですけ……あーすいません。今日も夜電話するって約束なんで、やっぱり今回は遠慮します」

「今日も夜電話……あー、そういう感じね。ま、頑張りたまえよ青少年。時が来たらお兄さんが良い店連れてってやろうぞ」

「?」


 お金もあるし久しぶりに先輩達と飲むのもいいなと思ったが、ふと夕葉先輩の悲しそうな顔が頭に過ってしまったので遠慮させてもらう。

 いつもなら断ると後輩が生意気だとか愚痴ってくる叶先輩だったが、今回は何故か怒ることはなく、何かを察したように面白半分から少しばかり哀れむような目へと変わり、俺の背中を軽く叩いてくる。


 なんだ一体。

 普通に断ったつもりなのだが、どこかおかしかったか?


「……ふん、心得ておけよとめる。綺麗な花にこそ必ず毒や棘があるものだ。付き合うまでは白菊のように優しげであった相手が、付き合った途端にDV上等な鬼の本性を晒すこともある。どこまで盲目になろうとも、相手も所詮は同じ人間で、完璧からは程遠いのだとな」

「はあ、まあわかりました」


 ガチャガチャとテレビの前で配線を弄る部長にそんな当たり前のことを念押しされ、何故今そんなことを言われたのかあんまりわかってないが、それでも一応はと頷いておくことにする。

 流石に宇宙人を恋愛対象に出来る気はしないから……ああでも、もし夕葉先輩が太陽系の外から来たお姫様とかだったらどうしよう。ないか。


「そうそう、相手も心ある人間なんよ。俺もそんな当たり前のことにもっと早く気づけていたら、あんな手痛い失敗しなくて済んだろうになぁ」

「無理だな。お前は骨の髄まで女の敵だよ」

「ひっでえ! 誤解っすよ誤解、敵であるつもりはないんすよ。マジで!」


 部長の歯に衣着せぬ物言いに、返す言葉もないとばかりにケラケラと腹から笑う叶先輩。

 部長は呆れながらテレビの前から立ち上がり、わざわざカーテンを閉め、部屋の電気を消してから元の席へと腰を下ろした。


「まったく、俺の後輩は癖のあるやつばかりだ。……さて、余計な小言はそこまでにするとして……小井川ゆうな、平成四天王が衝撃作は中々に希少なはずなのだが、はる、これどこで売ってた?」

「たまたま見つけた古っちいビデオショップっすね。百円で」

「……光陰矢の如し、価値は時代によって変わるものか。かつての伝説もこの様とは、哀愁深いものだ」


 ガチャガチャと、妙にうるさい音を鳴らしながら、やがて始まる映像よりも興味が湧いてしまったことが一つ。

 

 まるでおっさんみたいに昔を懐かしむのはいいんですけど、そんなこと思っちゃう部長、今いくつなんです?

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