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会見サンマ

 基礎英語とかいう無駄に英語を強制される大っ嫌いな講義が終わり、ただ今大学敷地内にある庭のベンチにて一服中。 

 穏やかな日差しの中で食べる、本日の少し遅めの昼ご飯はコンビニで買ったおかかのおにぎりと野菜ジュース。合計二百五十円とちょい、俺の中ですっかりお馴染みとなったメニューだ。

 

 部長が来ていいと言った時間は夕方なのだが、それまでもうしばらくの猶予がある。

 このままお日様を浴びながらベンチで一眠りか、図書館で適当に読書やスマホ弄りでもするか。

 ああ、そういえばこの前公開されたアニメの映画を見に行くって選択肢もあるな。今年のは中々に出来映えがいいらしいから、ちょっと空いてきたであろう今なら余裕を持って見られるかもな。


 一度考え始めてしまえば、逆に悩んでしまうくらいには湧いてしまう選択肢。

 筋肉痛が残っているから動かないことで何か、と。

 おにぎりを囓り、パリパリと咀嚼される海苔の音をぼんやりと聞きながら顎を動かしていると、目の前を通ろうとした女性が躓いてしまう。


 この庭で食べようとしていたのか、抱えていたお弁当箱と眼鏡が綺麗に空へと大放出。

 このままいけば、数秒の後には何もかもが台無しになってしまう最悪の末路は避けられない。

 お弁当も目の前で失い、自分も前のめりで石の地面に転んでしまう。俺だったらその時点で嫌になるだろうね。


 まあ見てしまったものはしょうがない。──止まれ時間(とき)よ、よっこらしょ。


 時間を止めて、おにぎりの最後の一口を食べ終えてから腰を上げる。


 動揺を顔に出す、中々整った顔の彼女。

 どこがで見たことある気がするなと思いながらも答えには行き着かず、諦めてお借りしますと一礼し、彼女の持っている箸と弁当箱を借り、中へと舞ったお弁当の具を箸で全部摘まんで箱へと戻していく。

 

 ご飯、ミニトマト、唐揚げ、星形にんじん、焼かれたアスパラガスに……おっ、ミニグラタンもある。懐かしいな。

 それにしても珍しい。食堂もコンビニもある大学で手作りお弁当、それもいい感じのお弁当とは。

 きっと自作なんだろうなこのお弁当は。俺も料理は簡単になら出来るけど、朝にちょっと早く起きてお弁当まで作る根気は湧かないからな。素直に尊敬しちゃうわ。


 名も知らない彼女の勤勉さに心の底から感心しながら、全部のおかずを箱へと戻して蓋をして。

 最後にサービスと、彼女の姿勢をなるべく優しく地面へと倒してお弁当箱をそばへ置いてから、再びベンチへと腰を下ろす。


 鬼畜行動だと思われそうだが、別に意地悪したわけではない。

 無理矢理立たせて目測を誤らせると、変に力が入って事故る可能性が高まってしまう。それならば勢いが付く前に倒れてしまった方が遙かに怪我がなく終われるというわけだ。


 ふう、一仕事した。

 望んだご飯を食べられないのは意外と尾を引くからな。転んだのは不運だけど、俺の目の前で転べたのはきっと彼女の日頃の行いだろう。


 そんなわけでお仕事終わり。──時間(とき)よ、もう動いて良し。

 

「うわわ……あ、あれ?」


 置いていた野菜ジュースを手に取り、ストローに口を付けながら時間停止を解除する。

 

 目の前の彼女は一瞬ばたつくも、すぐに床に倒れていると気付いたのか不思議そうな声を上げる。


 まあ無理もない。

 転んだと思ったら次の瞬間には倒れていた、やられた側は結構というか相当に驚くはずだ。

 

「……」

「…………」


 運良く零れなかったお弁当を拾い、キョロキョロと周囲を見回しながら立ち上がる彼女。

 そんな彼女とバッチリと目が合ってしまったので、何気なしにぺこりと会釈すると、顔を赤くした彼女はどこかへと去っていってしまう。

 

 あー行っちゃった。

 しかし足速いな。脱兎の如くって言葉が似合うくらいにはギャグ演出張りの退散っぷりだ。


 ぱっと見だが、陽と陰では後者よりな見かけをしていたのだが。

 単純に足が速いだけか。何かのスポーツでもやっているのか。それともダンジョン探索でも嗜んでいるのか。

 最後のは特に見かけによらないからな。実際ホムラなどの美形ダンジョン配信者(ライバー)を知らずに街中で見かけても探索者だとは思えないだろうし、軽はずみにナンパした馬鹿が痛い目みるというのはよくある話だ。


 もしかしたら、あれで一級探索者だったりするかもなと。

 浮かんだ考察を華らで笑って否定しながら、近場の映画館の上映時間を調べようとしたときだった。


『どっちか、鍋の具材買ってきてくれると助かる。予算は五千だ』


 ピコンと、スマホに上部に出てくる窓に書かれていたのは部長からの頼み事。

 なるほど、鍋か。時期は少し過ぎたが、男三人が集まって駄弁るには最適にして簡単、万能な料理だ。


 このまま居眠りなんて気分ではなくなった今、時間つぶしにはちょうどいいと。

 『おけです』とお気に入りのパンダのスタンプを押してから、ぴょんとベンチから跳び上がり、未だ少し筋肉痛に苦しみながら鞄を手に取って。


「さあて、ん、何か落としてる……」


 そうして買い物へ繰り出そうとしたとき、ちょうど彼女の転んだ場所に何かが落ちていたのに気付き、近寄って拾ってみたのだが、ささやかな驚きを抱いてしまう。

 何せそこに描かれていたのは見覚えある青髪紺セーラーが特徴な少女。

 俺の推しである青柳(あおやぎ)トワが大好きだと公言するラノベ『蒼斧レナは戦慄(おのの)かない』の主人公、蒼斧(あおの)レナの描かれたアクリルキーホルダーだったのだから。

 



 





 豆腐、マロニー、豚肉、白菜、水餃子、ポン酢。それが鍋における俺の黄金パターン。

 個人的な趣向の下、厳選した品々をスーパーで購入した俺はビニール袋を手に掛け、意気揚々と部長の部屋があるアパートの一室へと到着し、ベルのボタンへ指を掛けた。

 

「来たか。ああすまない、まだ少し散らかっているから足下気をつけてくれ」


 少し待った後、開いた扉から顔を出したのは、額に冷却シートを貼り付けた男。

 鋭い目つき、下のみの白(ふち)の眼鏡が特徴なこの人の名前は坂又剣也(さかまたけんや)先輩。この部屋の主にして俺の所属するダンジョン考察サークル、通称『ダン考』の部長を務める四年生だ。


「熱でもあるんですか? ……というより部屋、前より汚くなりましたね。何か買ったんです?」

「プラモを少々、軽くのつもりが中々に奥が深くてな……なんだ、酒は買ってこなかったのか」

「これだけでも重いんですって。それにいつも、お酒とおつまみは(かのう)先輩が買ってくるじゃないですか」

「……まあそれもそうだな」


 冷却シートについて尋ねながら部屋へ上がると、そこは広がっているのは充実した大学生の一人暮らしらしく、六畳程度に色々と詰め込まれた部屋。

 すっかり見慣れた部屋だが、床にはダンボールやビニールやら色々と煩雑しており、何かしらの作業に没頭していたのだろうと窺える。


 そしてテーブルの上で存在感を放っていたのは、見事な装飾の施された青白い刀身の剣だった。


「おーすげえ、これ部長が作ったんですか?」

「どうだ、中々に精巧だろう? 百分の一スケールのライジン。十三年前に掘り出された日本で五本目の魔剣、その最新モデルだよ」

 

 出来の良さに、少し誇らしげに解説してくれる部長。

 坂又先輩はダンジョン産の武器、主に剣の類に目がない人で、色々とかき集める収集癖がある。

 今見ているライジンだけではなく、部屋のそこかしらに置かれている品々は、とても彼女を招けるとは思えないほど趣味人だということが一瞬で察せられるほどだ。


 今は小さい一室だが、いつかは専用の部屋を作り、更には自分の手でダンジョン産の武器を見つけたいとのこと。

 ダンジョンで稀に発見される武器や道具の発見は、宝くじの一等を当てるみたいな奇跡で探索者の多くが求めていること。俺は手続き等が面倒臭そうなのであまり望んではいないけどな。


「ういーっす。来やしたぜさかさん……お、とめるももう来てたんだ。おっつー」

 

 ともかく、こんな惨状では鍋パなんて出来やしないと。

 俺が座れる程度に床やテーブルを片し、部長がライジンを片してからお鍋の準備を始めてからしばらく経ち、ほとんど終わった頃。

 

 ガラガラと、酒ばかりの買い物袋を持って部屋に入ってきたのは茶髪の男。

 零細ダンジョンサークルなんて場違いな、適当なヤリサーで女遊びしている方が似合うホストみたいな風貌のイケメン。俺の一つ上の学年である、(かのう)はる先輩だった。


「頼まなくても酒を買ってくるとは、流石ははるだな」

「よしてくださいよさかさん。俺ぁ買いたい酒買ってきてるだけですって」


 ぐつぐつと、湯気を立てて煮える鍋を前に座りながら、期待通りだと小さく笑う部長。

 俺の何倍も勝手知ったる部屋だと、手を洗って冷蔵庫を開けて不要な缶を放り込んでから、どっこいせとそれぞれの前に缶を置いてから、俺の正面へと座ってきた。


「では、我がダン考の後輩二人よ。今日も集まってくれたことに感謝する、乾杯」

「乾杯です」

「かんぱーい!」

 

 部長の音頭と共に、それぞれが缶を打ち付け合ってから、プルタブを開けて喉へと流し込む。

 喉を刺激する炭酸と、伝わってくるミカンの爽やかな味。

 アルコール度数七度。先輩がくれたのは、俺が最初に飲んでからお気に入りである缶チューハイであった。


「先輩。俺の好み、よく覚えてましたね」

「出来る男ってのはそういうの見えてるから出来るんだぜ。とめるも見習ってくれよ?」


 ウィンクしてくる先輩。感謝はしているけど、それはそれとしてむかついて仕方ない。

 我関せずと、既に自分の具をよそって食べ始めている逆又部長。缶ビールをごくごくと喉へ流し込み、「プハア!」と満足そうに唸る叶先輩。

 どちらも俺が入った時から何も変わらないマイペースな先輩達。相変わらずだと思いながら、俺も鍋から具をよそっていく。


「あー、会見何時からっしたっけ?」

「確か二十時だったはずだ。少し遅めだが、より多くの人が見られる時間という配慮だろう」


 日本人はなと、若干鼻で笑いながら答えた部長。

 テレビのそばに置かれたデジタル時計が示すのは十八時四十三分。もうしばらく待たなければならない。

 確かに時差等々を考えれば、夕方から始めた方が遙かに良心的だろう。

 そもそも二十時から会見を始めたら帰る時間はどれくらいになってしまうのか。企業勤めの世知辛さを、始まる前から感じ取ってしまい涙が出そうになってしまうね。


 そうして始まった鍋の消費は早く、十九時半になるよりも前に食べ終わってしまい。

 鍋を片付け、部長が消化したいらしいアニメを流しながら、折りたたみ式の麻雀卓をで三人麻雀をして会見の開始まで時間を潰していた。


「……そういえば、お二人ってどんな出会いだったんですか?」


 テレビで流れる部活動物のアニメを流し見していると、ふと気になったので牌を切りながら尋ねてみる。

 俺は入学当時に適当に大学散策をしていたら、人数合わせにと結構強引に加入したが、先輩達はどうだったのかについては聞いたことがなかったのでつい気になってしまった。


「あー、俺が一年の頃ダン活の方でやらかしちゃってさ。そのとき助けてもらったんよ」

「初聞きですね。ちなみに何したんです?」

「いやー、女の子目的でサークル入ったんだけど、紆余曲折の果てに三股バレちってさ? そんであわや刃傷沙汰、人生退学間近だった所をさかさんに拾ってもらえたってわけ。ワンワン、ポン」


 先輩の話す、予想以上に先輩らしい理由につい首を横に振ってしまう。

 ドラマチックではあるけれど、現実はテレビでやっているアニメのように綺麗な出会いとはいかないんだな。


「……思えばあの頃のはるは随分と世界を舐めていたな。我ながら何故助けたんだか」

「へー……あーツモです、1000と2000ですかね」

「うへー。とめるは相も変わらず上がるの早いねー……おっと、そろそろ時間じゃないっすか?」


 そりゃそうよ。

 俺は時間を止めればいくらでもイカサマ出来るんだから、何も賭けてないからしてないけど。


 二人から点棒を頂いてから積み直していき、ちょうどゲームを再開となった頃に先輩がそう言うので時計へと目を向けてみれば、確かに二十時手前を指している。

 時間が経つのは早いものだと思いながら、どうせならとコメントも見たいとスマホを取り出して会見のライブを開いて台の縁へと立てておく。


『お待たせいたしました。定刻となりましたので、これより会見の方を始めさせていただきます』


 そうしてベテランである中年の司会のアナウンスから、ついに注目の会見は始まった。


「おー、ホムラのスーツ姿とか結構レアじゃないですか?」

「すげえや、尻と胸がパッツパツでエッチ。なあなあ、とめるはどこフェチよ?」

「前も言わなかったですっけ? 胸、鼠径部、足、首筋。人に言える程度にはノーマルですよ」


 会見に参加している人物の紹介、規約の説明など。

 形式的な事項を話していく司会の声を聞き流しながら牌を取りつつ、(かのう)先輩の質問に答える。


 とはいっても、話される内容については既に世間でも周知のことばかり。

 難しい言い回しで長ったらしく話されるそれらを真剣に聞くよりかは、件の配信の切り抜きを見直した方がずっと早いなと思いながら、引いてしまった牌につい顔が歪んでしまった。


 ……げえ危険牌、素直に出したら終わるなこれ。


「そういえば、二人は配信見てたんですか?」

「見てたぞ。その頃、その瞬間はここまでの大事になるなどとは思いもしなかったがな」

「俺はハニーとデートしてたよ。昨日あいつ誕生日でさ、ちょっとオシャンティな店でしっぽりね」


 けっ、これだから彼女持ちのリア充は。

 自慢でさえない、何てことない日常のように言いやがって。大体彼女なんて出来る方が選ばれた人間なんだっつーの。


『ではこれより質疑応答に移りたいと思います。各自一度のみ、指名された方から順にお願いいたします』


 しばらく聞き流していると、ようやく会見の醍醐味である質問タイムが始まってくれる。

 

 隠し部屋発見の際、何故一度撤退して報告しなかったのか。

 企業として、今回の一件にどのような責任を感じているか。

 赤竜と名称付けられたあのドラゴンは、どのように活用されるのか。

 

 既に説明されていたものへの深入りや、意外な切り口からの問い質し、果ては感情剥き出しで質問とさえ言えないお気持ち発露まで、様々な質問は続き答えられていく。


『日朝テレビの沢木と申します。ホムラ氏の配信は常々楽しませてもらっている一視聴者の身として心苦しいですが、心を鬼にしてお尋ねします。先日ネット上にて、赤竜と名乗るダンジョン生物の凄惨な死体の画像が公開されたことは既に周知の事実だと思います。その件にて単刀直入にお伺いさせていただきますが、あの赤竜を倒したのは本当にホムラ氏本人なのですか?』


 そして中盤に差し掛かった頃、沢木と名乗った記者が立ち上がり、嫌みたらしい口調で尋ねていく。


『ホムラ氏の配信を振り返りましても、あの局面から脱却出来る手はなかったはずです。もしもドラゴンキラーの虚偽であると、或いはあの一連が仕込みだと後日に判明してしまえば、探索者資格の剥奪は愚か刑事罰に処される可能性さえあるはずです。ファンの方々の期待、お話願えればと思います』


「うわぁ、あの記者絶対眼鏡かけてますよ。カメラで映したらニタニタしてますって」

「まあ楽しいだろうね。公然で美人な有名人に言葉責め出来るのなら、シモ弄らなくたって絶頂ものでしょう」


『私がお答えします。赤竜討伐は私が……ホムラが、自身の剣で討伐したものではないと宣言させていただきます』


 重役のおっさんを手で遮りながらマイクを取り、自ら質問に答えるホムラ。

 今日初めてのホムラの回答に、ざわざわと騒ぎ出す会場と一段と流れる速度の増したコメント欄。

 そして俺達もまた、麻雀の流れが一瞬だけでも止まってしまうくらいには、全員がそれぞれで反応してしまう。

 

「……どう思います?」

「思いの外正直で誠実だなとだけ。ああ悪い、それロンだ。8000だな」


 質問の答えと共に、部長は俺の出した牌で上がってしまう。

 しまった。画面見てて集中してなかったのを後悔しながら点棒を渡し、更には罰ゲームと冷蔵庫から適当に酒を取りだしてくる。


『ということは、ホムラ氏はあの赤竜を倒していないと?』

『その通りです。あの瞬間、私自身はあの竜を倒す実力を持ち合わせていなかったと、ダンジョン庁の方にも報告させていただきました。以上です』


「さかさーん、正直って言うのはどういう意味っす?」

「あのバラバラ死体をホムラがやったなどと断言するのはそれこそ盲目な信者くらいだろう。だが映像、私がやりましたなんて名乗りもないんだ。手柄にしてしまうのが最も角が立たないし、会社としてもそれが一番金になる。わざわざ真実を話す必要なんてないだろう?」


 渡した缶を置いた部長は、眼鏡のブリッジをクイクイしながら先輩の質問へ饒舌に答える。

 

 まあ確かに倒した証拠はどこにもないけれど、彼女が倒していない証拠もない。

 実力が足りていなくとも、他に討伐者とほざく第三者が登場したとしても、裏で会社規模のごにょごにょすればそれで何とかなるだろうな。


 ああもちろん、張本人である俺は名乗り出る気なんて微塵もない。

 記念に持ち帰ったドラゴンもとい赤竜の鱗の端を証拠として出せるとはいえ、訴訟だのなんだの面倒臭くて仕方ない。大体そういう思惑があったのなら、助けたときに挨拶して恩を売るくらいはやってるからね。


『先ほどのお答えだけでは納得出来ません。第五階層は表層、東京ダンジョンにおける人類安全域です。正体不明の存在が赤竜を倒したとなれば、ダンジョンの封鎖さえ視野に入れなければならないほどの──』

『現在、ダンジョン庁の特別班が詳しく調査中です。私がこの場で断言出来るのは、今回の我々の生還は奇跡でしかなく、私自身の浅慮と慢心が窮地を招き多くの人々へご迷惑をかけてしまったことだけです。深くお詫び申し上げます』


 にべもなく質問を遮りながら立ち上がり、深く頭を下げるホムラ。

 パシャパシャとシャッター音の鳴る会見場所の中で、退かざるを得ないとすごすご着席し、渋々といった手つきでマイクをスタッフへと渡した。


 ライブ配信のコメントは爆速で追い切れないが、見た感じは擁護と非難は半分ずつくらいか。

 きっとどっかの掲示板を覗けば、えっちだのざまぁだの好き勝手書かれているのだろう。


『月刊ダンジョンウェブの高橋と申します。発見された隠し部屋には現在入場規制が課されておりますが、規制解除の目処は立っているのでしょうか?』

『規制につきましては当会社ではなくダンジョン庁の管轄であり、我々としては彼らの調査進度次第としかお答え出来かねます。詳細はお手元の資料に記載されておりますので、そちらの方ご確認をお願いいたします』


 着席したホムラに代わり、再び周囲の職員達が熟々と答えていく。

 微妙に被った質問が増え始めて、峠は越えたとスマホの配信を消し、缶の中身を流し込んでいく。


「さて、こうなれば会見もあとは流れ作業、今宵も宴もたけなわだが……どうしたい?」

「帰るの面倒なんでよろっす。とめるはどうすんの? オールナイトしちゃう?」

「俺は帰りますよ。まあ終電までは時間ありますし、最悪タクシーでどうにでもなりますからもう少しはいますけど」

「ひゅーリッチ! 懐あったかいねぇ、三級探索者!」


 茶化してくるが先輩、三級探索者はあんたや部長も同じでしょうに。


「ならこの局終わって最下位が買い出しだ。異論はないか?」

「いいっすね。悪いなとめる、俺が安手で上がって外行き決定だ」

「……好きに言ってください。吠え面かかせてやりますよ」


 そうしてすっかり注目の失われた会見をBGMに、三人の合意で魔のオーラスが始まりを告げる。


 ……むかついたから時間(とき)止めちゃおっと。目指せ役満、一発逆転完全勝利だ。

読んでくださった方へ。

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