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正義という悪意

 カーテンさえ閉め切られた、パソコンの画面以外に明かりのない四畳半。

 夜よりも暗く、陰鬱とした空気とエアコンの稼働音が嫌に響くばかりの安らぎとはかけ離れた部屋。

 そんな部屋の中で、ぼさぼさ髪の男は目の前の画面──そこに映る一枚の画像を眺めながら、ビール缶を片手にほくそ笑んでいた。


「ふはは、ざまあないな! 困ったらすぐ男に頼る、これで視聴者ファーストとか聞いて呆れるわ! 尻軽ビッチの詐欺師がよ!」


 喜びに打ち震えながらビールを飲む彼のそば、無造作に床に散らばるは複数枚の写真。

 いずれも共通しているのは女性がメインに写っているということ。

 髪、瞳、服装。そのいずれも雰囲気から二通りに異なれど、どことない面影と明らかに盗み撮られたというだけは共通している写真だった。


「これだから女はゴミだ! あいつのせいで、あの糞女のせいで俺の人生が……クソがッ……!!」


 男はまだ中身の入っているというのに、怒りの形相でビール缶を握り潰し、そのまま床へとたたき付けてしまう。

 ビール缶は写真の上に転がり、零れた黄金の液体が写真をひたひたと塗り潰すように濡らしていく。男はその様子を見下ろしながら、けれども拭こうとすることさえなくビール缶を拾い上げる。


「……プハア! 懲りないならもうちょっとお灸を据えてやる必要があるな。社会の厳しさってやつを。楽して稼いでちやほやされる女も、それを庇う間抜けな馬鹿な男も!」


 潰れたビール缶に口を付け、僅かに残っていたビールを喉へ流し込んでから画面へにやける。


 画面に並べて映されていたのは、二枚の画像。

 深い蒼の髪、紺色のセーラー服、そして特徴的な黒と蒼の戦斧でダンジョンに歩く女性。

 そして特別個性のない男と並んで歩き、隣の男へと笑顔を見せる黒髪の女性。


 何の関連性のないはずの二人。結びつくはずのない、まったく異なる髪色を持つ女性の後ろ姿。

 それでも男は知っている。隠れて秘密を暴くまでに至るほど、憎悪と利己に呑まれた男だからこそ理解している。

 この二つは同じ人物であり、片方は暴くべきでない偽りの姿であると。これを世に晒す、それこそが黒髪の少女に最も効果的な制裁であると。


「……そうだ、これは正義だ! 世の騙されている男達へ間違いに気付かせるその一歩だ! 人を弄ぶ悪魔への天誅! 俺はまさしく、正義の体現者なのだ! ふははっ!!」


 男はひたすらに、目をぎらつかせ、狂ったように笑いを上げ続ける。

 男の顔には人を害する罪悪感など一片たりともなく、悪魔にでも魅入られたかのように快感に酔うばかりだった。

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