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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第94話 血路を開く


 佐野は鴻巣に逆に聞き返す。

「……なんで私に聞くの?

 岡部がいないからって、私なの?

 でもまぁ、アキレス腱に相当する部位がないはずはないってこと、私でも言えるかもね。だってアキレス腱断裂って、テニスをやっているとよく聞く怪我だもん。ボールを追ってのダッシュとかジャンプのときに切れるって聞いているから、裏を返せばそれだけダッシュとかジャンプに必要な部位だってのは言えるんだろうね。

 だけどさ……、腱って包丁で切れるの?」

 えっ、切れないのか?

 僕はびっくりして目を見開いた。


「イメージとしてはだけど、むちゃくちゃ固いって感じだけど……。

 鶏もも肉買ってきても、腱というか筋は切るとき苦労するよね。それが何十倍も太くて、まして生きて動いているんだから、家庭用の包丁で一刀両断できるとは思えないよ。だいたいさ、腱より柔らかい筋肉部分でだって、長尾の刀の方が折れちゃったじゃない」

「えっ、じゃあ、鴻巣案は却下?」

 そんな僕の言葉に応えたのは、さっきからそわそわしていた坂本だった。


「並榎、却下もへったくれもない。話したり考えたりしている間に、もう時間だ。

 急いで槍を全部完成させてくれ。あと5分くらいで、音楽室で蒼貂熊の鳴き声の再生が始まっちまう。こうなったら並榎案と鴻巣案、臨機応変に使い分けるしかない」

 えっ、時間経つの早すぎっ!


 坂本と吹上がハンガーの針金を伸ばして、包丁の柄とモップの柄に巻き付ける。だけどぐらぐらしていて、きちんとした固定は難しそうだ。

 北本が布を坂本に向けて放り投げた。そして、ものすごい早口で言う。

「これで縛って、その上から針金を巻いて。少しはしっかり固定するはずよ。

 あと、赤紫蘇入りの球は4つしかできなかった。急ぎに急いで縫ったので、形が歪んでいるのは許して。糸はできるだけ細いのにしたから、簡単に壊れて中身が飛び散る。投げるときに壊れないように気をつけて」

「応っ」

 奥がそう応えて、佐野と2つずつ分け合う。


 その間にも、坂本と吹上は渾身の力で針金を締め上げて、モップの柄に包丁の柄を結びつけようとしている。だけど、このペースじゃ5分で2本しかできない。それを見て、奥があらかじめ布でモップの柄と包丁を巻くのを手伝う。

 宮原と北本も、ふたりでなにやらごそごそ始めている。だけど、それがなにかを確認する間もなく、吹上が視線と手は槍に向けたままで叫んだ。


「そもそも並榎、俺たちはどこで待機するんだよ?」

「生徒玄関だっ!」

 僕はそう叫び返す。とりあえず、僕にはそこしか思いつかなかった。


 それから間を置かず……。

 音楽室の方向から、何度も聞いた蒼貂熊の咆哮が流れてきた。今ごろ音楽の武藤先生と体育の先生たちは、弓道場脇の鉄筋コンクリート造りの倉庫に走っているはずだ。

 同時に、ボランティア部の喜多の声が上がり、それに従って1年生の第一陣が走り出した。彼らが血路を開く。まずは脇目も振らずに地域防災センターまで走るんだ。


 いよいよ、だな。

 生きて帰れる確率は高くはない。でも、誰かがやらなきゃならないんだ。

 全員で安全なところに逃げる。そして、怪我人は救急車に乗せる。最後に、殿(しんがり)の僕たちも無事に逃げる。地域防災センターには食べ物がある。そろそろ皆、空腹になってきているはずだ。きっと落ち着いて水と食べ物を腹に入れたら、これからに対する良い案だって浮かぶさ。


「バリケードの向こう側でこちらを窺っていた手負いの蒼貂熊(アオクズリ)、いなくなったぞ」

 そう報告してくれたのは剣道部の長尾。殿(しんがり)部隊に参加できる状態じゃないけど、誰からもなにも言われないのに偵察役をしてくれたんだ。

 なんて責任感の強さなんだろう。もういいから、オマエはさっさと逃げることを考えろ。

第95話 走り出す

に続きます。

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