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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第89話 アルトリコーダー


 最後に僕、全員を見渡した。ひとりひとりと視線が合った。

 もうこれで最後かもしれない。いや、最後にはしない。地域防災センターまで行ければ、全校生徒で一週間の籠城だって可能だ。それに、そこの食料を食い荒らしていれば、どこかの公的機関が助けが来るのも早そうな気がする。

 こっちは満身創痍の緊急避難だ。盗み食いしたとは言わせないし、言われもしないだろう。


「みんなで生きて家に帰るからな!

 いいなっ!」

「応っ!」

 大きな声では叫べない。でも、言葉の勢いで決意を確認し合ったんだ。


「じゃあ、最後は、殿(しんがり)に残る者だけで話そう」

 僕の言葉に、殿(しんがり)部隊に義勇兵(ボランティア)として名乗り出た者たち以外は、自分たちの避難準備のために素早く話の輪から外れていった。赤羽の死が、ただ逃げるだけということにも果てしない重みを与えたんだろうな。

 あれっ?


「井野、きみは手を挙げていなかったはずだけど?」

「ああ、俺は地域防災センターには行かない。俺は帰宅部だから帰宅を試みる。もろちん偵察を兼ねてな。その結果はなんとしても地域防災センターに知らせる。だけど、最後にこれだけは伝えておきたい」

「無茶はするなよ」

 僕は、そう井野に念を入れる。だって、単独行は赤羽の死という前例を招いたんだからな。


「俺にとっては1年生と3年生の全員を囮に使うようなもんだ。無茶じゃねーよ。それより……」

「なんだ?」

 僕の声に期待感がこもるのを自覚する。だって、井野のことだ。いい案を出してくれるんじゃないだろうか?


「『囲魏救趙(いぎきゅうちょう)』だよ」

「おう、さっき言いかけた兵法三十六計のうちの1つだな?」

 さっきは鴻巣に遮られて、井野は説明ができなかったんだ。


「ああ」

「この局面で使えるか?」

「多分な。さっき言いかけたときとは局面が変わった。ゆかりの使い方も、だ。だけど、変わらずこの手は使える。

『囲魏救趙』は、敵を一箇所に集中させず、奔走させて疲れさせてから撃破するという戦術だ。このときに分断もできれば各個撃破の好機にもなるだろう。

 今の基本プランでは、蒼貂熊に音楽室への往復をさせて時間を稼ぐわけだろ?

 だけど、戻ってくるときは、生き延びている蒼貂熊のすべてが一緒に戻ってくるだろう。こうなると『一箇所に集中』ってことだから、いくら奥と佐野が頑張っても対処しきれるとは思えない」

「それはそうかもな」

 井野の言うリスクは理解できる。とはいえ、奥と佐野に気を使って、僕の返事は曖昧なものになった。だけど、もそう言われたからといって、奥も佐野も不満そうな顔にはならなかった。


「じゃあ、どうする?

 複数の蒼貂熊に対抗できるのは合唱部の低周波ぐらいだけど、人数が多いから殿(しんがり)に残すなんてできないぞ」

「手はある。1年生に確認した」

「どういうことだ?」

 井野の言う「1年生に」ってところがまったく理解できなくて、僕はオウム返しに聞いた。


「並榎にしかできない手だ。蒼貂熊の進路を誘導できるかもしれない。遠回りさせて疲れさせることだってできるかもしれないんだ」

「どうやって?」

 井野の考えがわからない僕は、持って回った言い方に焦ってさらにそう聞く。


「ほら並榎、オマエにしかできないだろ?」

そう言って井野が差し出してきたのは、アルトリコーダーの口に咥える部分のパーツだ。

「3階にはこれ1つしかないけど、1階の1年生の教室にはたくさんある。すでに確認済みだ」

「で、これをどうしろと?」

 僕の問いに、井野はにやりと笑った。良い案だからって、もったいぶらないでさっさと教えて欲しいな

第90話 囲魏救趙

に続きます。

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