第83話 救急
坂本は「これからどうする?」と聞くけど、話は議論の余地もなく簡単なことじゃないか?
「決まっているさ。
僕たちには、どう逆立ちしたって知りもしない核技術を蒼貂熊に漏洩できない。たとえ知っていたって、こんな戦いの中からは伝えようがない。だから、好きにやればいいのさ」
「なるほど、そりゃそうだ」
「宮原と北本のおかげで蒼貂熊に攻撃を当てる方法もわかったし、後ろを見ずに戦えばいい。そして、生きて帰ろう」
「そうだな。残りは4頭だったな。全部駆除してやろうぜ。赤羽の仇だ」
僕の言葉に坂本が応じた。
そうだな、そのとおりだ。赤羽の仇だ。
井野も言う。
「そうだな。蒼貂熊には、人間様に楯突いた報いを受けさせてやろう。俺たちだって生きて帰れなきゃ、本命の異世界の敵とも戦えないしな。
まぁ間違いなく異世界の敵は、孫子の兵法も知っているだろう。だけど、今の時代でのその使い方は、ゲーム理論に加えてAIでシミュレートを重ねてってことなになるんだろうな。だけど、そんなの今の俺たちと蒼貂熊には必要ない。戦略、戦術は相対的なものだから、相手よりちょっとだけ上に行ければいいんだ。で、そのちょっとの匙加減が難しいのは俺だってわかる。だけど、このあたりも気を使うことはないさ。蒼貂熊相手に、戦略はともかく戦術を深読みしすぎても意味がないし、人類と異世界の蒼貂熊の後ろにいるヤツとの戦いでの本番の読み合いに比べたら、俺たちのなんか稚拙にもほどがあるだろうからな。
吉と出ようが凶と出ようが、単に一生懸命やればいいんだ」
この言葉には、聞いていたみんなが等しく頷いていた。
そこで、坂本が大声で「あっ」と叫んだ。
全員の視線が坂本に向き、その坂本は左手に握った鴻巣のスマホを凄い目つきで凝視している。
「119が繋がった!
消防局をコールしているぞっ!」
その声に、座り込んでいたみんなが立ち上がった。
ようやく外部と連絡が取れる。これで助かるかもしれない。僕も嬉しさのあまり、小躍りした。宮原と北本も手を握り合って、その場でぴょんぴょんと2回跳ねた。
「……はい、救急でお願いします。はい、構いません。
場所は県立鷹ヶ楸高校です。3年の坂本です。
はい、ここも蒼貂熊に襲われて、頭を打って昏睡の女子、それから深い切り傷や打撲を負った生徒が複数います。死亡した生徒も1名……。
職員室は蒼貂熊に入りこまれました。教職員は何人犠牲がでたか、まだ何人生き延びているか、まったくわからない状態です。
……はい、……はい、それはしかたありません。
はい、わかりました。1時間後に校門から出ているようにします。……はい、絶対遅れません。よろしくお願いいたします」
そう言って、坂本は電話を切った。
「みんな、聞いていたとおりだ。
1年のところに行っている上尾も呼んでくれ。みんな揃ったら詳細を話す」
坂本の言葉に、行田が1年生のところに走る。
すぐに上尾が戻ってきて、他の負傷していない3年生も僕たちの回りに座り込んだ。
坂本は、みんなを見回して説明を始めた。
「1時間後、救急車が校門に横付けされる。で、それに間に合うよう出ていなければ救急車は行ってしまう。なぜなら、他校では死者が続出しているからだ。重傷者も多い。どうしても、そちらが優先となる。ましてや、他校では蒼貂熊を1頭も仕留められないまま……」
坂本の声はだんだん小さくなり、最後は聞き取れなくなってしまった。
第一のあとがき
クリスマスver.の蒼貂熊を描いたイラストを、花月夜れん@kagetuya_renさまにいただきました。感謝なのです。
第二のあとがき
第84話 義勇兵
に続きます。




