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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第79話 Y0uTuber逮捕の事情


 井野はさらに続けた。

「お互いに日本人だ。生徒会長の鴻巣には釈迦に説法だろうが、日本人の気質はよく知っているだろ?

 戦うと決めたら徹底してやる。中の人が変わったように戦闘民族となる。その一方で、妙に遵法意識が高い。そこまで言えば、警察とかによる徹底した民間人武装解除と鳥獣保護法への位置付けも納得できるだろ?」

「……なるほど」

 鴻巣はそう呟いて……。ひどく打ちのめされたように見えた。

 ベルトで縛り上げられていながらも僕たちを支配できるほどだった精気が、すべて抜け落ちてしまったように見える。きっと鴻巣は、悩みに悩んだこの問題で、自分の出していた結論が誤りだったと認めざるを得なかったんだな……。


 ってか、僕も井野には完全同意で、「……なるほど」としか言いようがない。

 蒼貂熊(アオクズリ)を狩ると決めたら、狩り尽くす。異世界への出入り口を封鎖してから、緻密に念入りに、山という山を順番にクリアしていくに違いない。現にそうやって、病原体の宿主を根絶させて、地方病を根絶させた歴史が日本にはある。

 だけど、法律で狩るのはダメとなったら、身内が喰われても復讐という行動に移せる人はそう多くはないだろう。考え方や気持ちの問題だけじゃない。ある程度以上の武器がなければ話にならないし、その入手は絶望的だからだ。


 そうか、思い返してみれば……。

「そう言えば、『銃刀法に引っかからない蒼貂熊駆除』なんて動画を上げたY0uTuberが逮捕されたって事件もあったよな。あれも井野の話と合わせると、きわめてわかりやすい事例だって気がする。銃刀法どうのより、効率的に蒼貂熊を狩るということ自体がよくなかったんだ」

 僕の言葉に、さらにみんなが頷いた。ああ、でもそれを見ておけば、今だってもっと打てる手があったのかもしれないのが悔しい。


 岡部も口を開く。

「最初っから、異世界側がこちらへ蒼貂熊を大群で送り込んでこなかった理由、それもわかるな。つまり、こちらで繁殖して数を増やした理由だ。

 やっぱり、偵察役だからなんだ。数が少ないと、こちらのカウンター策を曖昧(あいまい)にできるからなぁ。いきなり10,000頭が隊列を組んでやってきたら、さすがに自衛隊が出ていただろうよ。そうなったら、ここを支配するための基礎の自然環境すら調べる間がない」

 なるほど。


 化学部の細野も口を開く。話題が科学に踏み込んでいるから、黙っていられなかったんだろう。

「人類側が効率的に隠している以上、街や自衛隊の基地を外側から見ているだけでは、ヒトというものの本質を突いた情報はなかなか集まらない。それで今回の事態ってことだ。直接やりあえば、遠くから見ているのとは桁違いにヒトを知ることができるからな。

 つまり、さっきの戦争のフェーズってヤツを、向こうが上げてきたってことだ。それで今回、騙し騙されるって文化がこちらにあるってのを蒼貂熊の背後にいるヤツは知ったわけだし、社会的弱者であると舐めてかかった俺たちがここまでやるってのが、蒼貂熊にとっては一番の偵察結果だったかもしれないな……」

 うん、そのとおりだ。僕たちのポテンシャルを知られたことの方が、大きく見たら人類へのダメージだったかもしれないな。

 いや、この考えは気をつけないと、鴻巣の嵌った思考の落とし穴に落ちちゃうな。

第80話 寝返りの機能

に続きます。

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