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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第75話 人類の未来のために……


 でも、僕は鴻巣と同じ決断はしたくなかった。

「鴻巣。僕は嫌だ。

 僕は戦う。戦って、家に帰る。みんなも家に帰る。従容として自分から死刑台に上るのだけは嫌だ。蒼貂熊が学ぶなら、学ばせておけばいい。その次の戦いのときには、僕たちはさらにその上を行くだけのことだ。そして、今の僕たちにできていることが、人類全体でできないはずがない」

 僕の言葉に、吹上が拍手をした。だけど、追従する者は1人もいなかった。吹上はバツが悪そうに、目立たないようにゆっくりと手を下ろした。


「並榎。お前が言っていることには無理があるって、みんなわかっている。人類は蒼貂熊には勝てるだろう。だけど、その後ろにいる、|異世界に自己増殖型の低コストの偵察撹乱部隊アオクズリを送り込んでくる敵には勝てない。

 それでも残っている僅かな勝利の可能性を潰し、手近な勝利の夢物語を貫いて人類の未来を巻き込んで戦う気か?

 いつまでも常に相手の上を行くのが無理である以上、勝ち続けるのは不可能なんだよ。ましてや、最初からすべての面で敵の方が優れているんだ。勝ち目はない……」

 鴻巣は言葉を続け、女子たちの中から再び啜り泣く声が湧いた。男子たちは寂として声も出ない。


 でも、僕はその空気に異を唱えた。

「勝ち目がなければ戦わないのか?

 勝ち目がなければ、状況のままに死に身を委ねるのか?」

「人類の戦略に悪影響を及ぼしてまでも、か?

 そのために殉じるのは、戦うってことではないのか?」

 鴻巣は僕の質問に質問で返してきた。


 鴻巣は、縛られて床に転がされたまま僕を睨み上げる。そんな状態なのに、敗北感を味わっているのは僕だ。

 でも、僕も視線を外さない。ここで負けるわけには行かないからだ。僕たちの間の空気はガラスのように硬質化していた。

 最後に僕、5秒ほど目をつむって考えをまとめた。議論で鴻巣に勝つのは、蒼貂熊に弓で勝つより難しいかもしれない。


「鴻巣、いや、ここにいるみんなに聞きたい。良くも悪くも人類の歴史は戦争の歴史だ。そんな中で、兵法三十六計なんて言っても、いつの時代のものかもわからないほど古いものだ。

 僕たちは、そんな古いマニュアルで、弓矢だの投石だの刀だの、400年前には廃れてしまった戦い方で対抗している。電気トラップだけが現代だけど、それだってとことん基礎的なものだ。

 そんな僕たちの戦い方が、近代戦の時代の人類の戦略に影響をすると思うか?

 それは、人類史とその進歩を舐めた判断じゃないのか?」

 ざわっと、みんながざわめいた。うん、僕の反論が再びみんなに希望を与えられたならいいけれど。


 だけど、鴻巣の目は、強く僕を見返してきていた。まぁ、そうだろうとは思う。僕以上に鴻巣はいろいろと考えていたはずなんだから。

「並榎。オマエの論理は破綻している。戦略戦術と科学の進歩を混同しちゃっているんだ。

 たしかに、科学とそれによる武器は進歩しただろうさ。だけど、オマエの言い方だと昔の兵法三十六計は、変わらずが有効だって言っているようなものにならないか?

 現にそれで蒼貂熊を倒しているんだから。

 とすれば、この知識を蒼貂熊に与えてはならないという結論は変わりようがない」

 これにはみんな、再び黙り込んだ。


 僕は鴻巣の論理に即座に言い返す言葉が見つからず、必死に考え込んだ。だけど、僕が考えをまとめる前に、井野が口を開いた。

「兵法三十六計の上を行くと評価されている孫子の兵法でさえ、紀元前500年くらいだ。そして、その孫子の兵法は今でも現役だ。鴻巣の言うとおり、戦いの戦略、戦術は時代を越えて変わらないと言える」

「そうだ。だから、並榎の意見は御都合主義者(オポチュニスト)の夢物語だ」

 ついに鴻巣は、僕に対してそう決めつけた。

第76話 将棋対バスケットボール

に続きます。

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