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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第69話 言い方、ひどくない?


 ……頭ん中、混乱の極みだけど、それでもわかることがある。僕は今、底なしのぬかるみに足をとられつつある。絶対にヤバい。てか、家庭科室への往復は、女の戦いも兼ねていたのかよ。「どれだけみんなが生き残ることに対して貢献できるか」って勝負で、賞品は僕ってことだ。

 そもそもだけど、この勝負の動機、僕を殴ったり首を絞めたりした赤羽に対する2人の怒りってのもあったんだろうな。負傷して動けない僕の代わりを、2人で見事に果たして見せてくれたんだ。


 いろいろと思い出すと、今までの宮原のがんばりとか、こまごました北本の気の利かせ方とか、妙に辻褄が合うような気がする。だれもがだれかのために戦ったように、2人は負傷した僕のために、僕の代わりとして生命を張って頑張ったんだ。


「……でもさ、保健室に矢を射込むとき、2人とも随分と息があって協力し合っていたよね?」

「当然じゃん。中学の時からの友だちだし」

 僕の問いに、北本は平然と応える。

 あ、そうなんだ。女の友情、僕が壊しちゃうのかなぁ。


「ちょっと離れてくれ。宮原、北本、聞いてくれ。

 僕はまだ絶望してない。限りなく絶望の崖っぷちに近くても、まだ絶望に落ちてはいない。蒼貂熊(アオクズリ)の残りはあと4頭、しかもそのうちの1頭は手負いだ。それを倒せれば、まだ生き延びる目はある。消防とも連絡がつくかもしれないし、救急車だって来てくれるかもしれない。

 だからこの続きは、生きて帰ってからにしないか?

 僕は、君たち2人を守るし、2人にはなんとしても生き延びて欲しいし……。

 僕が死んだら、それに引きずられるのもどうかと思うし……」

 僕は、たどたどしくても必死で話したんだ。この場でどちらかを選ぶようなことは言いたくなかった。だって、どうせ僕も死ぬんだ。やっぱり死ぬであろう2人の夢を奪わなくてもいいじゃないか。

 だけど……。


「キモっ!」

「なんでだっ!?」

 マジ、なんでだ、北本?


「なに、いきなりモテる男ムーブかましてんのよ?

 並榎はね、私たちのどっちかに涙を流して感謝して、『お付き合いさせていただきます』って言えばいいのよ。私たちが死んじゃうときに、『ああ、よかった』って思えるように。さぁ、さっさと答えて。雅依(かえ)と私、どっちなの?」

「悪かったな!

 キモいと言われようが、なんとかムーブとか言われようが、2人とも生きて帰って欲しいのは本気だっ。きみたちが死んじゃう前提はないっ!」

 やっぱり北本、さっきの「くそっ、お湯が沸かせれば、熱湯をぶっかけてやるのにっ!」って叫んだ方が本性かよっ!?


「そうだ、そのとおりだ」

 そこで、そう割り込んできたのは井野だった。

「2人の気持ちもわからなくはない。言いたいことも、わかりたくはないけどわかる。だけど、今の並榎は、蒼貂熊との戦いで擦り減らされるべき存在だ。もう少し擦り減って、出殻(でがら)しになったら君たちにあげるけど、今はまだダメだ」

「言い方、ひどくない?」

 思わず、どこぞの勇者のように僕は苦情を言ってしまう。とはいえ、心の底ではほっとしていたのも事実だ。


 だけど、井野は平然と僕に説教をかました。

「モテる男は、他の男子からしたら敵なんだよ。並榎は今、全男子を敵に回した。俺も敵だ。その自覚は持て。

 まぁ、だからって、鴻巣の言うことも聞けないけどな。

 ともかく今は、北本が持ち込んでくれたものでどこまで戦線が維持できるか、岡部の考察とともに検討するべきだ。それに、鴻巣から携帯を取り上げたのなら、職員室との連携の取り直しを。それから、救急にも確認を。やらなきゃならないことはいくらでもある」

「そうだ。そのとーりだ」

 僕も井野に全面同意して、それを期に、ようやく宮原と北本を引き剥がした。

第70話 兵は詭道きどうなり

に続きます。

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