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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第5話 鳥獣保護法


 しかも、海外からの働きかけがそれに加わった。「捕鯨を続ける日本人は、次は蒼貂熊(アオクズリ)を絶滅させるのか?」とか、「これからの人類史の発展のため、日本政府には慎重な対応を求める」とか。

 だって、外国からしたら、それこそ他人事だもんね。

 それに、諸外国にはもう一つ思惑があった。あとで説明するけど、日本の貿易輸入額は蒼貂熊のせいでうなぎのぼりになっていたんだ。


 そんなことから、準備されつつあった蒼貂熊対策新法はぐずぐずに崩れ去り、「ヒグマ以上であってもトラ以下なら、『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律』の対象にすべき」なんて信じられない意見が通った。当然、そうしている間にも死者と負傷者の数は増え続けた。だけど、「蒼貂熊への対応を誤ったための自業自得」という無責任な識者とやらの意見が通って、怪我をさせられた人間の方が悪いということになってしまった。

 そもそもが、魔界への入り口付近、その周囲にいる蒼貂熊に近づく人間の方が悪いって言うんだ。だけど、元々そこで生活している人たちがいて、そこに異世界への口が開いたっていうのに……。


 で……。

 そんなこんなの10年の間に、日本の山岳地帯沿いに南下した蒼貂熊は数を増やし、街の中ですらその姿を現し、人間に襲いかかるようになった。川と県境が重なっている千葉県とか、やはり大部分が河川と湖沼で隔てられた大阪から京都、琵琶湖、小浜のライン以西とか、地形に恵まれたところはかろうじて守られていたけど、きっと長くは保たない。


 ことここに至っても、あとに話す外国からの工作と与野党の政争の具とされたことで、蒼貂熊問題への法的対処はなかなか進まなかった。そして10年の間に猟友会はさらに高齢化が進み、ろくな報酬もないのに()(この)んで自分から命懸けで蒼貂熊の前に立とうとする者もいなかったから、会員数は大幅に減っていて実質的に対応はできなくなっていた。


 魔界への逆侵攻も、こうなるともう不可能だった。

 蒼貂熊はどんどん入ってくるのに、こちらからは向こうに行けない。行けば自己責任で、蒼貂熊を傷つけるような行為はできずに戻ってこなければならない。

 法的に言えば、個人としては蒼貂熊に襲われて戦っても正当防衛は成立しないし、緊急避難で処罰はされないもののあくまで緊急ということだ。こちらから出かけて緊急は成立しない。そして、組織としては自衛隊は侵略に相当しかねないからと行けなかったし、他の公的機関ですら法を遵守する立場の手前、なにもできなくなっていた。


 こうなると、魔界への口の向こう側は、謎のまま残されることになった。最初期に撮られた写真数枚、それしか情報がなかったんだ。

 で、情報の不足は対策の不足を呼んだ。


 こうなると、まずは農業が崩壊した。

 大規模化が進んでいた産地では、乗用の農業機械類を鉄板で補強し、そこから降りずに収穫まで済まそうという考えで作付けが始まった。だけど、ようやく実った収穫物はほとんどが食い荒らされた。蒼貂熊は雑食で、トウモロコシからカボチャに至るまで果てしなく貪り食ったんだ。もちろん、放牧牛も軒並み喰われた。

 しかも、腹立たしいことに蒼貂熊は満腹まで喰うと吐き戻し、再度喰うという行動を見せたんだ。1頭の蒼貂熊が5頭もの放牧牛を喰っては吐きした現場では、牧場主が声を上げて泣くシーンが報道された。

 その被害は一ヶ月で100億円を超えるとまで言われたけど、対策としては電柵設置の補助金の増額しか手は打たれなかった。


 だって、誰がなにをどう言おうとも、法的には蒼貂熊は保護対象だったし、人間の自分たちが最強だという驕りと正常性バイアスは、昨日と同じ日々の継続を強いたんだから……。

第6話 崩壊

に続きます。それで背景描写は終わり、舞台は高校に戻ります。

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