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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第37話 電気トラップ


 井野と松井はさらに矢を吹く。立て続けに吹き続けた。

 その状況を見に行きたいと切実に思っていても、僕は動きが取れない。感電している先頭の蒼貂熊(アオクズリ)の脅威が去るまでは、だ。

 矢を射たいとも思うけど、射られたことで蒼貂熊が反射的に動いたら感電状態が解けてしまうかもしれない。ぎりぎりまで伸びたギターの弦に宿る緊張感が、僕たちにも伝染していた。これが切れたら終わりだ。その可能性が、僕と宮原に矢を射させなかった。まぁ、もちろん、残りの矢数があまりに少ないからってのも大きい。


 弓を引いてまったく動けないでいる僕の横に、赤羽が立った。

 ……コイツ、戻ってきやがった。

 赤羽、僕の引いている弓につがえたまま矢のクロムの鏃に、梅干しを突き刺した。

「先頭のヤツを狙え。

 精密狙撃ができるなら、鼻の穴だ」

 僕、無言で狙いを定め、放つ。


 4m先の動かない的だ。まして、直径5cmはある。図らずもコレ、28m先の36cmの的を射るにほぼ等しい。近い分だけ、風だの矢の落下幅だのを考えなくてもいい。

 矢は、鼻の穴に深々と入り込み、矢羽の尻の方と矢筈だけが見えている。だけど、鼻の奥で刺さったかどうかまではわからない。


 僕はすぐに次の矢をつがえ、弓を持ち上げて打起こしに入った。

「いや、もういいんじゃないか?」

 行田の声に、僕はようやく正面から赤羽を見る。なんか、信じられない思いだ。正直なところ、蒼貂熊に喰い散らかされた赤羽の死体を見ることになると思っていた。

 だけど、生きていやがる、こいつ。まさか、幽霊じゃないだろうな?


 その赤羽の向こう側で、宮原は弓を引き絞って不動の「会」の状態を保っている。どれだけの修練を積めば、ここまでの長時間、「会」の状態を保てるのだろう?


「そろそろこの蒼貂熊、感電死するよ」

 と、これは行田。

「……なにも起きてないじゃないか」

 そう言い返した僕に、行田は説明してくれた。


「人体の電気抵抗は体内は300Ω(オーム)と小さいが、乾燥した皮膚は案外大きくて5kΩ(キロオーム)だ。したがって、商用電源の100Vボルトに触れたときの電流値は……」

「20mAミリアンペアくらいだな?」

 オームの法則ぐらいは僕だってわかる。中学の理科だからな。まして100V÷5000Ω=、つまり1÷50=0.02、すなわち20mAなんて計算、暗算で十分だ。本当なら100V÷5300Ω=なんだろうけど、300は省略しても誤差は1割以下だ。


「いいや、皮膚は入って抜けなきゃだから、2枚通ることになる。だから10kΩで、電流値は10mAになる。ま、体内の300Ωは小さいから計算上無視してもいい。

 で、それで何Wワットだ?」

「1Wだな」

 100V×10mA=、すなわち100×0.01=1だから、これも暗算で十分。

 って、あれっ、感電ってそんなもんでしかないのか?


「そうだ。たかだか1Wでも人は死にかねないんだ。皮膚が湿っていれば2kΩまで抵抗は下がるから、25mA流れ、電力は2.5Wになる。こうなるともう自力では手を離せない。で、そのままじっくりと感電して死ぬ」

 そんなものなのか、本当に?

 少なすぎないか?

第38話 策の勝利

に続きます。

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