表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第四章 星波、日本にて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/278

第58話 覚悟


「問題は、彼女たちだけじゃ済まない。彼女たちにも親がいる。兄弟姉妹だっているだろう。その人たちをも蔑ろにしてはいけない。最も親しい人たちをも泣かし、場合によれば生命の危機にも追いやる。それがこの仕事だ。母さんは言うに及ばず、俺の姉、悠にとっては真由(まゆ)伯母さんだって拐われたことがあるんだ。悠のおじいちゃんはおばあちゃんを庇って、撃たれて死線を彷徨ってきたし。

 だから、悠にだって、安全のために俺の双海の姓は名乗らせていない。おじいちゃんの武藤の姓もだ。そういう生き方をしなくちゃならないことも、彼女たちにはきちんと伝えるんだ」

 そう言う父の声を聞き、逆に悠は覚悟を決めたよう見えた。


「父さん……。

 父さんの言いたいことはわかる。だけど……。鴻巣が死んで、退路がないのは僕だけでなく、宮原と北本も同じなんだ。

 自分の判断のせいで誰かを死なせてしまったとしたら、償うことができるのは自分の生命をもってだけだ。それを鴻巣は身をもって示した。そして同時に、僕たちの生命も救ったんだ。それも、自分のハラワタを毒にして、生きながらに食わせるという覚悟で、だ。

 僕たちを含め鴻巣に救われたみんなの生命、さらに鴻巣の証明した事実でこれから救われていく生命、そのすべてを見たら、もう自分だけ救われる立場で安穏とはしていられないよ」

 その声には心の中で抱き続け、口には出せなかったことをついに言ってしまったという悠の苦悩が満ちていた。

 父に宮原雅依(かえ)と北本珠花(みか)の家族まで持ち出されたら、悠としてもそこまで答えるしかなかったのだ。


「そんなことはない。退路はある。卑怯に見えもする退路だが、すべてを忘れるということだってできる」

 悠には、父が自分で信じていないことを口にしているとしか思えなかった。

 そして、父には悠の声はあまりに余裕なく聞こえていただろう。


「忘れることなんかできるはずがないだろ。できるとしたら、見て見ぬふりをすることだ。だけど、見て見ぬふりをするとしたら、それは一生続けなくちゃならない。それもきっと辛い。

 父さん、僕は毎晩のように鴻巣の夢を見る。僕たちを救おうとする鴻巣にむかって、『僕たちも戦う』って答えて、僕は目を覚ます。だけど、それが言えなくなったら、一生言えなくなったら、僕は……」

 そう言って、悠は下唇を噛んだ。そして、一呼吸して動揺を押し殺した。


「どっちを選択しても辛いなら、自分が卑怯ではないと思える方がまだマシだよ」

 悠の見せた覚悟に対し、父の言葉は変わらず氷のように冷徹だった。

「死という現実が目の前に立ちふさがることがあっても、悠は同じことを言えるのか?

 100人に99人までが、どれほど節を曲げようとも生きていられる方が良かったと後悔しながら死ぬんだぞ」

 父の言葉がどれほどの冷徹さを纏おうとも、その本質が息子の人生のことを思ってのことだというのが悠にはよくわかっていた。だが、それでも悠は引けなかった。


「父さん。父さんは銃口の前でもその選択をしたんだったよね。僕だってね、いや、僕たちだってね、蒼貂熊(アオクズリ)(あぎと)と爪を前にして選択をしたんだよ。その恐怖は、銃口以上だったと思う。銃に撃たれても死ぬだけだけど、蒼貂熊(アオクズリ)は生きながら内蔵を喰われるんだから」

「……」

 父からの返事は、深いため息だった。

第59話 行動開始

に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ