第54話 作戦会議……仮説補強
「悠さんの考えはよくわかった。だけど、その仮説に補強できる材料はあるの?
その装甲がなにか規格化されているとか?」
ヨシフミがさらに聞く。ヨシフミは瑠奈の悠への真意はわかってはいない。だが、瑠奈が話を変えようと思っていることはわかっていた。だから、話を変えたのだ。
「蒼貂熊の腕は、蛇のような触手です。ものすごい筋肉の塊でくねくね動くし、飛んでくる矢を握り止めることができるほど素早く動くんです。ラグビー部と力を合わせた3人がかりでも抑え込めなかった。
その腕が、なぜか装甲のそのあたりには届かないんです。人間の腕なら骨が長くて関節も少ないから、背中とか届かないところがあるのは当然です。でも、蒼貂熊の腕はそうじゃない。なのに、それでも届かないんです。もちろん、長さが足らないわけじゃないですよ。
鴻巣が蒼貂熊を槍で攻撃したとき、背中に飛び乗った鴻巣を1回は腕で攻撃したんです。ですが、装甲のところに張り付いた鴻巣への2回目の攻撃は、腕じゃなかった。壁に体当りして、背中に乗っている鴻巣を押し潰したんです。
つまり、魔素の取り出し口部分は、蒼貂熊自身には触れないのかもしれません。これも普通に考えたら、絶対に可怪しいです」
「……なるほど」
ヨシフミも、瑠奈に倣ってそうつぶやく。
人間であれば、肘の外側を顎に触れさせることはできない。体の柔らかいネコですら、自らの尻尾の付け根は触ることができない。だが、蒼貂熊の腕の動きの柔らかさはそれらをも超えるはずなのだ。悠の観察は正しいものと思えた。
瑠奈とヨシフミも蒼貂熊とは戦っている。しかし、あまりに一方的な戦いになったこともあり、そこまでの観察はできていない。激しくはあっても、時間としては極めて短かったのだ。
だから、それなりに真剣に戦いはしたが、悠のように必死であがきながら生き残る道を模索したわけではない。観察の量が少ないのは当然のことだった。
さらに悠は続けた。
「それに、蒼貂熊、腕の付け根が赤いやつと腕の先が赤いやつでオスとメスなんじゃないかとは言われてますが、身体の大きさに違いはないんです。そして、装甲の形状にもオス・メスで違いはない」
「なるほど。成獣は規格化されているということを言いたいのね」
「はい」
美岬の確認に、悠は返事をする。そこにはもう、母親と話しているという意識はない。英語でならば、Yes, Ma'amとでも言いたいところだ。もちろん、発音は似ていても、母を意味するMomではない。
「魔法の実験のあと、蒼貂熊装甲の形状もよく観察してみましょう。もしかしたら、観察から逆に接続する装置を想定できるかもしれない。仮説の補強としては、かなりのものね」
美岬の言葉に、悠はさらに続けた。
「もう1つ、そこから思いついたことがあります」
「なんだろ?」
そう聞いたのは瑠奈だ。
「猫のことを思い出したんですが、猫ってうなじのところを掴まれると動けなくなりますよね。子猫を親が咥えて運ぶところです。
もしかしたら、蒼貂熊も装甲のところで固定されると、動けなくなるのかもしれません。そういう反射が組み込まれた生き物だとしたら、これをうまく使えば、蒼貂熊をいくらでも楽に生け捕りできるようになるかもしれません」
悠の話す仮説に、美岬は複雑な表情で笑った。
作戦会議……配分実行
に続きます。




