第44話 魔法とは……8
星波は、こちらの世界に来る前に父からいろいろと話を聞かされていた。そのときの父の深刻さと劣等感さえ滲ませた顔を、星波はありありと思い浮かべることができる。
「みんなが『始元の大魔導師』様って持ち上げるけどなぁ。俺は、元いた世界じゃ出来はよくなかったんだよ。だから、星波、向こうで偉そうにすると足を掬われるからな」
「……本郷さんくらい頭が良い人がたくさんいるってこと?」
「本郷ですら、レベルが違う。そうだな、俺の世界では俺は中の下。本郷が中の中だな。ルーが上の下くらいか。星波が知っている範囲で言えば、魔法学院のラーゼスさんレベルで上の中くらいだ。そしておそらく、星波が向こうで話す相手はみんな上の中以上だ。そして、上の上の上に、神に近いのがいる」
「ラーゼス以上に賢い人が、向こうの世界にはそんなにたくさんいるの?」
「ああ、いくらでもいる」
そう言われても、星波としてはにわかに信じられなかった。
だが、こちらの世界に来てみれば、父の言葉は正しかったと思わざるをえない。美岬と瑠奈の言葉は、星波にはあまりに難しかった。魔素石翻訳でイメージが伝わるからまだいいが、言葉だけでは理解できなかったと思わざるをえない。それに、理解できることがらでも、今までの星波の視点とはぜんぜん違うところからものを見ているのは自覚させられていた。
その美岬が、「鳴滝さん、本当にいろいろ考えているんですね」と父を認めたことが、星波にとってはとても嬉しかったのだ。
美岬はさらに話し続けた。
「話を戻すけどね、昔ながらのフィルムカメラで天体写真を撮るのは本当に大変なのよ。図鑑にあるような写真を撮るためには赤道儀にカメラを設置して、長時間露光しないとだからね」
「赤道儀ってなんですか? 長時間露光ってなんですか?」
初めて聞く単語が複数になると、推理もできない。イメージ翻訳でも、無さすぎる概念は伝わりようがない。星波はそのままオウム返しに聞いた。
「きれいな写真を撮るためには、たくさんの光が必要。だけど、夜の星はね、暗いのよ。だから、きれいな写真を撮るのは極めて難しい。だから、時間を掛けて、たくさんの光をカメラの中に収めるの。それが長時間露光。だけど、長時間かけて写真を撮ろうとすると、地球にせよダーカスのある惑星にせよ、自転して回っているから星もどんどん動いていくように見える。つまり、太陽も星も東から上って西に沈む。それを時間をかけて撮ろうとしても、カメラの視界から逃げちゃうのよ。だから追いかける機械装置が必要で、それが赤道儀なの」
「……さすがに、ダーカスにはそんな機械はありませんでした」
こちらの世界からダーカスに運び込まれた機器は多岐にわたる。だが、どのようなジャンルでもすべて行き届いたとは、お世辞にも言えなかった。こちらの現代社会全体の知の広がりと深さは、ダーカスとは比べ物にならないものがあったのだ。
「じゃあ、そちらの夜空の写真を撮るのは難しいわね。天体写真はノウハウの塊だから。
簡単な天体望遠鏡しかない、衛星まで行く方法はない、そんな中でどうやったら魔素を発する衛星の秘密を解明できる?」
美岬の問いに応えた、ヨシフミの質問はあまりに直截的だった。
「魔法でなんとかできないの?」
と。
あとがき
魔法とは……9
に続くわけですが、芸がないw




