第40話 魔法とは……4
「まさか、神の子のこと?」
震える声で瑠奈が聞く。
ここにいる中で、瑠奈が一番衝撃を受けていたとしても、中世フランスで生まれ育ったその文化的背景を思えば仕方がないことだっただろう。
「そういうことも考えられるって、可能性の話よ。
それにコレ、あくまで推測だからね。だからさ、この推測の落とし所も魔素Aを使いこなす遺伝的ななにかって生物学的な話なのかもしれないし、逆にもしかしたら神の存在を証明できる話かもしれない。心霊の怪談かもしれないし、科学で理解できる、外部の系からのエネルギー供給によるエントロピーの逆行に見える事象かもしれない。こんなどうとでも取れるふわっとした話でしかないよ。
ま、かもしれない、かもしれないで、これじゃ地に足が着いた話にならないねぇ……」
美岬の言葉に、悠が聞く。
「外部の系からのエネルギー供給による、エントロピーの逆行事象ってなに?」
「逆行事象じゃない。あくまで逆行に見えるってだけの話よ。
生物の進化って、一見、より複雑になっていくように見えるでしょ。環境に高度に適応した結果、寄生虫のように身体の機能を削ぎ落としていく進化もあるけど、逆に複雑の極みに達することもある。これを乱雑さが減るってことで、エントロピー増大則に逆行している事象だから、有りえないことが起きていると言える。
だから、ダーウィンのいう進化は存在せず、各生物は神が創造したっていう論理に落とし込んで語る人がいるのよ。
でもね、外部の系、つまり太陽から膨大なエネルギーが常に供給されているからそういう事象も起きているんで、それがなかったら進化もなく、地球は無のような平穏に向かっていくだけ。
そして、太陽はこの瞬間にも確実に寿命を減らしているわけで、宇宙全体から見たらエントロピー増大則とは少しも矛盾していないのよ」
「……なるほど」
悠は、自分の母親の言葉に素直にうなずいた。自分の母が、こういう話もできる広がりを持った人間だと知り、さらにその上でその口調にも話す内容にもうなずくしかなかったのだ。
そこで、ヨシフミが話を戻した。
「たしかにふわっとした話なのは同意ですが、ね。
魔素Aを魔法として使えるのかとか、魔素Bが実際に使えているとか、生気がその魔素Aと同一なのか、こういうのを聞いていると、これはもう、魔素を使う新ジャンルの科学だと言えませんか?
そもそもとして、蒼貂熊がそのエネルギーを集めているという前提があるわけですし、こうなると魔法という言葉も再定義が必要ですし、もうオカルトというジャンルに置いておくわけにはいかないってのだけは確定なんじゃないでしょうか」
「そっか。
そうよね。さっきの星波さんの治癒魔法だって、超能力だ、神の奇跡だ、心霊現象だと、オカルトに置いておくとこんな感じでどんなジャンルに位置づけるかすらワケがわからなくなるね」
美岬の返答に、瑠奈もうなずいた。
「そもそも魔法という言葉ですらも、一般的には極めてあやふやで範囲が広くて定義できないものだよね。映画とかで描かれている魔法だって、描写はかなりあやふや。杖とか呪文とか魔法陣とかの媒介物を使うのが魔法で、使わないのが超能力だなんていい加減な切り分けだってできそうでしょ?
だけど、それが実態を現しているわけじゃない。これじゃ困るよ。
でも、ここで話してきた結果からすると、今ここで俎上に上がってる魔法は、明らかに超常現象じゃないでしょ。なんらかの未知のエネルギーを使って、未知の手段で効果を得ている。エネルギー保存則に反してないようだし、無から有は生じないと星波さんは言っている。それは、私たちの生気だって同じ。
やっぱり、他と混同を避けるためにも、きちんとした科学の手法で問題を切り分けなきゃ、よ」
瑠奈の口調は断定的なものだった。
きっと、
魔法とは……5
に続きます。




