第31話 変化(へんげ)
「私が見せてもらっているのは、黒髪の姿と赤い髪の今の姿、そして大きな動物の姿でした。それ以外にも姿を変えられるのですか?」
「いいえ、それだけよ」
星波の問いに、瑠奈は短く答える。
だが、視線をヨシフミに向けて続けた。
「私の変身なんか、驚くほどのことじゃない。
ヨシフミはもっとすごいよ。コウモリの姿になれるし、身体を霧状に変化させることもできる。これは、変身とかのレベルじゃない」
星波は、コウモリを見たことがない。ダーカスにはいない動物なのだ。だが、瑠奈の持つイメージは、魔素石翻訳によって正確に星波に伝わった。
「コウモリという動物は小さそうですね。
ヨシフミさんは、身体の大きさを小さくできるということですか?」
「ああ、コウモリのときは、30cmくらいの大きさになるよ」
ヨシフミの返答に、驚きの表情を見せたのは星波だけではない。
「大きく化けるのはいくらでも手があるでしょうが、小さく化けるのは無理のはずです。その30cmのコウモリのときは飛べるんですか?」
「今の体重のまま、30cmのコウモリになると思っている?
そんなわけないじゃん。体重もそれ相当になるからもちろん飛べるよ。だから、僕のは変身じゃない。変化なんだ」
「言葉はそれでいいにしても、それって物理的に可怪しくないですか?」
悠がヨシフミを問い詰める。だが、ヨシフミは笑った。
「ヴァンパイアの身体は、半分別の次元に繋がっているんだ。だから体内での時間の経ち方は体外と違うし、実体はそちらに置いて影だけをこちらに残すようなもんなんだ。その影がコウモリの形ってだけだよ。だから、僕の身体の外見を変える変身じゃない。あくまで僕自身は変わっていないんだ」
「……別の次元って。
なんか、怪奇話がSFになったような……」
悠の感想に、ヨシフミは説明が必要と感じたようだった。
「これから話すのは、僕の父の仮説だ。当然、証明はされていない。だけど、僕自身はこの仮説をかなり確度の高いものと感じている。
それに拠ると、僕たちの宇宙は、長いゴムチューブみたいなものなんだ。この場合のゴムチューブ本体は、時空の流れだ。ゴムチューブの中の空気の分子がどう動こうともその断面積は変わらず、ゴムチューブ本体の向きにも影響しない。つまり、ビッグ・バンから始まって、宇宙は再び収縮して消えていく。それは動かしようがないということだ。
宇宙の中に発生した生き物が意思を持ち、いろいろと行動することはできる。でも、最終的な未来は変えられない。誰が生まれようが死のうが、ゴムチューブの断面積は変わらない。全人類が協力して努力して、多少変えられたとしてもゴムチューブは太いままや細いままではいない。結局わずかな時間の範囲で、エネルギーの収支は釣り合わされてしまい、元の太さに戻る。
これを僕の父は『時空のエネルギー保存則』と名付けたよ」
「……ヨシフミさんの父上は、なんでそんな事を考えたのですか?
物理学者だったとか?」
悠の質問に、ヨシフミは笑った。
「父は母が早死してしまう未来を変えるために、悪魔との取引まで考えたんだよ。そして、自覚はしていなかっただろうけど、結果としてこの宇宙の外、すなわちゴムチューブの外に出る方法を模索し続けていたんだ」
いきなり割り込んできた「恋愛」という動機に、美岬と悠はどう反応していいのかわからずにいた。
第32話 ワープと召喚
に続きます。




