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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第24話 思い込み2


 宮原雅依(かえ)の言い方は、いつものからっとしたものではなく、妙におずおずとしたものだ。そもそも僕、宮原から「くん」を付けて呼ばれるなんて、1年生のとき以来で随分と久しぶりだ。

 ……ってか、さっき冷静さを失って宮原を名前呼びしてしまった。だから、僕との距離を取ろうとしているのかもしれない。


 そう思ってしまった僕は、顔には出さないようにしていても、心の中に大きな穴が空いてしまったような気持ちになった。

 それに、僕が射るのがなんでよくない?

 命中率は、僕、そう低くはないはずだぞ。


 僕の顔色を見たのか、宮原はより真面目な顔になった。

「他意はないから、落ち着いて聞いて欲しい。

 私は並榎くんほど強い弓は引けない。だから、射た矢は近い的でさえ放物線を描いて飛ぶ」

「……強い弓で、真っ直ぐ飛ぶ方がいいんじゃないのか?」

 僕の質問に、宮原は首を横に振った。


「窓から見てみて。保健室の窓は見えないよ」

「えっ!?」

 あまりに根本をひっくり返すような指摘に、僕たちは揃って廊下の窓に駆け寄って見下ろした。


「……本当だ」

「来客玄関に行くための、階段と踊り場の陰になっちまってる。特に踊り場の手すりの高さがエゲツない」

 呆然。

 この学校にはもう2年以上通っている。当然、頭の中に学校の平面図はなんとなくできあがっている。だけど、その「なんとなく」の思い込みがここへきて足を引っ張った。僕たち生徒は、掃除当番にでもならなければ来客玄関とそれに至るための階段なんか上ることはないから、意識の外だったんだ。


「で、並榎くん、保健室を狙える?」

 宮原の問いに、僕はうなずくことができない。

「……無理だ」

 そう呻くのが精一杯だったんだ。


 改めて僕はじっくりと観察した。

 保健室への射線、下からは踊り場の手すり、上からは2階のベランダの張り出しが邪魔するから、コレ、曲射するにしても難易度はとんでもないぞ。ちょっとの加減で間違いなく届かない。


 いつの間にか横に立った宮原が言う。

「難しいのはわかっているよ。

 だけど、私、あまりに力がないし、腕も長くないからね。だから、射つときの矢の軌跡について、絶対に並榎くんよりは考えている。考えなきゃ、私の矢は的に当たらないどころか届かない」

 ……そうだな。ただでさえ女子の矢は男子の矢より遅く、放物線が深い。その女子の中でも宮原は小柄で華奢だ。

 だからこそ障害物を曲射で避けられると言うなら、その積み上げ努力と経験は買うべきだろう。


「それにね、矢筈に糸を結んで射るとなれば、矢の速度はさらに落ちて放物線はさらに深くなるよ」

 ……それもそのとおりだ。

 言われてみれば、僕にとってはあまりに未知の領域だということに気がついた。そもそも極端に高低差のある的を射たこともないし、自分の射た矢が的に届くかなんて真剣に考えたこともなかった。的の手前に矢が落ちることはあっても、それは外れたのであって届かなかったというのとは話が根本的に違うからだ。


 蒼貂熊(アオクズリ)を射れたせいで、僕は舞い上がっていたようだ。すべてを簡単に考えていた。そう自覚せざるをえない。

 僕は白旗を掲げることにし、バンザイのポーズを取った。

「降参。

 宮原の言うことはすべて正しい。任せます。よろしくお願いします」

 この条件でのやり直しのできない一発勝負、僕に可能なことじゃない。と言うより、矢の速度が速い僕には射線が確保できないし、弓を引ききらずに射速を調節して射るなんて経験もさらさらない。これじゃ、そもそも不可能だ。

第25話 曲射

に続きます。

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