第30話 力関係
母からの、「虐殺をしてまで生気を得ている組織があるとしたら、今回の事態をどう捉えるか?」という課題に対し、悠は簡単に答えることができた。
「同族である人類を虐殺してまで生気を得なきゃなのに、蒼貂熊はこの世界からどんどん生気を盗んでいる。その2つが手を組むことはありえないし、結果として人類の敵に回ることはないと思います」
母を相手に、いつの間にかより丁寧な言葉を使っている悠だった。
悠は、自分の考えの至らなさに臍を噛んでいた。このような問いについて、聞かれれば答えられる。だが、ここに悠自身の見過ごせない重要な問題がある。
自ら、その問い建てをできなかったことこそが問題なのだ。それができなければ、作戦立案からその指揮に至る実戦の場で役に立ったとは言えないではないか。
「そうね。
その前提があるから、そういう組織があると想定しても、その組織が敵に回ることはないと言えるわ。その組織がやっていることの倫理的な話は別として、ね。今は人類の内包する敵であったとしても、外敵が現れれば話は別なのよ。
それについては、また後で考えればいい。蒼貂熊を使ってくる勢力との戦いが終わると同時に殲滅戦が始まると思うけど、それを考えるのは今ではない」
「それはわかるけど、噛み合わせて共倒れを狙うこともできるかもしれないじゃない。なら今、考えなくちゃいけないんじゃ……」
瑠奈の言葉に、美岬は首を横に振って答えた。
「それは考えない方がいいと思うわ。
理由は簡単。相手の組織に『極めて強い、信念と自己抑制の意思がある』と想定されるからよ。こういう相手は、こちらの手のひらの上に乗ってくれない。となると、手のひらに乗せるための何段階もの細工が必要になる。だけど、今回の場合はそんなことをしても問題が複雑になるだけで、その労に見合うだけのリターンは得られない。
少なくとも、今の私たちの組織力で負ける心配がない以上、正面から押し潰せばいい。その方が不慮の事態が起きる確率は少ないわ」
「……わかりました」
瑠奈も、美岬に対する言葉づかいが丁寧なものになった。
高校生の息子を持つ母とはいえ、美岬の年齢は瑠奈からすれば10分の1強でしかない。だがこの会話だけでも、知識と作戦立案の両方で、瑠奈は美岬に勝てないと思い知らされていた。ワインのシャトーの経営者としての判断をしてきたからと言って、戦闘指揮ができるわけではないのだ。
もちろん、これは受けてきた教育の差によるものだ。美岬は人生のほぼすべてをこのジャンルに捧げてきたのに対し、瑠奈はそのような専門教育を受けたことすらない。先ほどもだが、人類の虐殺史をあえて調べようと思ったこともない。
「なるほど。
となると、今の段階では、魔素と生気は同一のものとなりますね」
そう話を戻したのはヨシフミだ。
「で、星波さんは魔素の、瑠奈さんは生気の専門家だ。お互いにそれらを融通しあって、使用感が同じなら確定でいいと思いますけど」
ヨシフミの続いての提案に、瑠奈と星波はうなずいた。
「治癒魔法とか、使えますか?」
星波の問いに、瑠奈は首を横に振った。
「いいえ、話をしていても、魔素と生気の利用に共通点は少ないと思っている。
私は治癒どころか、他の魔法とかも使えないし……」
「でも、変身はできる?」
星波の問いに、瑠奈は首を縦に振った。
第31話 変化
に続きます。




