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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第四章 星波、日本にて

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第26話 魔術師の掟


 星波は続けた。

「繰り返しますが、いくら魔素を大量に使っても、無から有は生じないというのが私達の世界の魔法学院の見解です。

 なので、食料を失っても手の打ちようもないまま人口が大幅に減り、魔素を貯めて使う技術を支える人材もいなくなる中で、天空からの魔素を貯めたり跳ね返す技術さえも失われていき、ダーカスとてあと10年は保たないかもと言われるようになってしまいました。

 そんなときに、こちらからダーカスへ召喚された私の父が、魔素の技術を復興し、地が焼かれるのを止めて農地を確保したんです。そして今は、魔法に頼りすぎない世界を再建しているんです」

「……話の規模が大きすぎて、これでは到底、生気(プネウマ)が魔素とは言えない気がするなぁ」

 半ば呆然とした瑠奈の声に、ヨシフミが反論した。


「豆電球と原子力発電所を比べたら、到底同じものとは思えないけど、結局は同じ電気なんですよ。結論を出すにはまだ早すぎです」

「それはわかるけど……」

 瑠奈の口の中でのつぶやきに、星波が問いかける。


「魔素は、父の作ったコンデンサで保存ができます。これです。生気(プネウマ)は保存できないのですか?」

 そう言って、星波は持ってきた荷物の中から、『魔術師の服』に包まれた魔素の充填されたコンデンサを取り出し、テーブルの上に置いた。


 部屋の中心は、太陽が出現したかのように明るくなった。

 高純度の金の塊の存在感は、美岬と悠、そしてヨシフミですら動揺を隠せないほどだった。おそらくは、5000万円に相当する量なのだ。それをいきなり目の前に突きつけられて、驚かないほうがおかしい。


 瑠奈だけが一瞥したのみで、淡々と話を続けた。

生気(プネウマ)の保存なんてこと、考えたこともなかった。いつだって足らなくて、貯めておける量があったことなんか一度もなかったんだから。

 それに、こちらでは石炭とか石油とか、魔素以外にも使えるエネルギーがあったからね」

「……なるほど」

 星波はうなずくことしかできない。こちらの世界はこちらの世界で事情があったのだ。だが、父が「国を支える柱は何本も必要だ」と、召喚されてすぐに言いだしたという意味が星波にもあらためて理解できた。


「それにね、こっちじゃ金は貴重品過ぎて、コンデンサなんか作れないよ。たとえ生気(プネウマ)を保存できたとしても、1個あたりに溜め込める量は多寡(たか)が知れているんでしょ。

 言いたくはないけど、私たちの世界だと、これだけの量の金を得るぐらいなら、その分の魔素を持った人間を殺して奪う方が早いしコストが掛からなかった」

「……」

 さすがにこの瑠奈の言葉に、星波はなにも言うことができなかった。


 ダーカスでは、魔術師はノブレス・オブリージュの掟に縛られる。

 自らの生命さえも惜しまずに、魔法で世の中に尽くさねばならないのだ。それはまた、魔術師の誇りでもある。

 だが、世界が違えばここまで事情が異なってしまうのだ。

 もしも……。魔術師がノブレス・オブリージュの掟を捨てていたら、魔術師は魔素を得るために皆殺しにされていたかもしれない。ノブレス・オブリージュの掟を、星波は自衛の観点から考えたことがない。だが、無視するには大きすぎる気づきだった。


「それからね、私たちは生気(プネウマ)の物質化を成し遂げている。6万人の生命と引換えに、だけど。

 魔素が豊富なそちらで、魔素の物質化ができないとしたら、生気(プネウマ)と魔素は違うものだということにならないかな?」

 瑠奈の指摘に、星波は考え込んだ。


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