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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第四章 星波、日本にて

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第20話 魔法の本質


 星波は、幼少期から母が魔法を使うのを見てきた。たぶん、星波自身に才能もあったのだろう。直感的に魔法を理解し、そのまま特になにも考えなくても使えてしまっていたのだ。

 だから、魔素を扱うのも、呪文を唱えるのも、そういうものだと思っていただけで深く掘り下げることはなかった。

 だが、それでも、魔法の本質が、呪文の音の波による効果とは違う気がした。


 そもそも呪文は単純なものなのだ。

「天に満ちる魔素の力を司るカーナンの神よ、その力を(もっ)て、我れにその片鱗を与えよ!」みたいなことは言っては()()()

 魔術師間での魔素の移動の呪文にしても、直訳すると、「力、星波、行く、事の成就を願う」くらいのシンプルさなのだ。しかも語順はない。どの単語から唱えてもいいのだ。よほどの特殊な呪文でない限り、これで用は足りる。


 父が「当たり前の技術ってのはそういうもんだ」と言っていたのを、星波は思い出す。加えて、「テレビのリモコンが、毎回気合が必要なものだったら、少なくとも俺は使わない」とも言っていたが、これは星波にはよくわからない言葉だった。それでも、「気軽に扱える技術でないと一般化しない」ということが言いたいのは、星波にも理解できている。


 それらを考え合わせると……。

「魔法の呪文には、掛ける対象を織り込まなくてはなりません。でないと、発動する対象がわからないからです。そして、その対象はとても幅広い。

 えっと、つまり、なにが言いたいかといいますと……」

「……なるほど」

 瑠奈がつぶやく。そして、切実な表情で、慣れない言語でその概念を懸命に伝えようとする星波に代わって、ヨシフミと悠に言い直してくれた。


「音の波が魔素の働きを形作るとしたら、その波だけで対象を選びきれるとは思えないってことよね。つまり、『個人』どころか、『この部屋にいる全員』という設定だってできるし、それらの指定が音の波という振動だけですべて正確に実現できるとは思えないってことよね?

 より具体的に認識ができる、術者の思いが実現するという方が適切だろう、と?」

「そのとおりです」

 瑠奈の言葉に、星波は同意する。


 魔素石翻訳では、相手の言うことはわかっても星波の言いたいことを伝えることはできない。なので、星波は伝えたいことは自分で言わなければなのだが、このような突っ込んだ議論となると限界があった。そこで、星波の言いたいことを瑠奈が言ってくれたのは、チェックだけで済むので極めてありがたかった。

 思わず、深々と頭を下げてしまったが、瑠奈は笑って軽く手を振り、星波に礼は不要だと身振りで伝えた。


挿絵(By みてみん)


「それに、魔法はとても多くの種類があります。

 呪文を憶えることで、こういう種類の魔法があるということを、整理して理解することができます。それから……」

 そこで止まってしまった星波に対し、瑠奈が再び代弁した。

「思考とイメージが魔法の本質の一端を担っているわけだから、呪文という形で整理しておかないと、個人の抽象的な認識の混沌と漠然の中に術自体が沈んでしまうっていうことだよね?」

「……言っていることは正しいですが、ダーカスではそこまで難しい言い方はしないのです」

 瑠奈に圧倒されて、ようやく星波はそう返した。

第21話 呪文の本質

に続きます。

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