第14話 ヴァンパイアとして生きる
星波は、美岬から借りた筆記具と紙に瑠奈から聞いた話を記し、それを封筒に入れる寸前で手を止めた。そして、視線を上げて聞く。
「すみません、ヨシフミさんでしたっけ?
あなたはどういう方なのですか?」
その質問に、ヨシフミが視線を星波に合わせる。
「……なんと言ったらいいのかな、端的に言って、僕は人の血を吸う化け物です。そして、血を吸われた者はやはりヴァンパイアになります」
「吸血の期間はどれくらい?
吸血にともなう作用効果の選択はできるのですか?」
これは星波ではない。美岬の問いだ。
「さすがの質問ですね。
ヴァンパイアの数が危機になるとしたら、純粋に算数の問題ですからね。でも、ご心配のようなねずみ算にはなりません。ならなかったのにも理由があります。
もちろん、血を吸ってもヴァンパイアにしないこともできますし、私自身は血を吸わなくてもかなり長い時間平気です。それに、血の代わりに赤いバラの花から生気を吸うこともできますから、飢えることもないんです。
だって、見ず知らずの人の首筋に噛みつくって、キモチワルくないですか?」
「……吸血鬼のセリフなの、それ?」
そうつぶやいたのは、悠だ。
ヨシフミは、その悠の言葉を無視して続けた。
「現に私は、一度も吸血をしたことがないんです。その方が、平和に生きていけますしね」
「それって、普通の人と違わないということになりかねないんですが?」
これは星波の問いだ。
そもそも、血を吸って生きるということがどういうことか、よくわかってはいない。そもそもダーカスにはこういう種類の怪談はなかったし、弓矢以上に概念自体がなかったのだから当然のことだ。
それでも、「人の血を吸う化け物」と定義された存在が、それを嫌がるってのはよくわからない。それはすでに、別の存在ではないかと思うのだ。
「でも、ほら」
そう言った次の瞬間、ヨシフミは瑠奈の隣から美岬の隣に立っていた。
美岬は、ソファの下に手を突っ込むという無駄な行為はしなかった。銃把を掴み、銃口を向け、引き金を引く。これは3動作となり、あまりに時間がかかりすぎるからだ。
美岬は低い体勢のまま瞬時に踵だけを跳ね上げて、ヨシフミの首筋を襲った。真下からの、そして距離が近すぎるがゆえに、ヨシフミには見えないはずの鋭い攻撃だった。
すぱっという空気を切り裂く音に、ぼばっという大きく空気が動く音が重なり、ヨシフミの姿が見えなくなった。
「なにが、引退した身、ですか?
僕を殺す気ですか?
もっとも、僕は死にませんけど」
そう言うヨシフミは、すでに瑠奈の隣に戻っており、話を続けた。
「ヴァンパイアは、自分の身体を霧に変えられるんです。だから、物理攻撃は効きませんよ。外で風がある日なんかはこうは行きませんけど、室内だったらこのくらいのスピードは出せますし。あと、コウモリにも姿を変えられますが、こちらは飛べてももっと遅いので……。
他にも歳はとらないし、その気になれば怪力を出せますし、でも、日中太陽の下は歩けません。今も思いっきりSPF50+でPA++++の日焼け止めを大量消費してますから。
星波さん、つまり僕は、これだけでも人間とは大きく違うんです。違う生き方を選ばざるをえない」
「失神した星波さんを支えられたのも、速すぎるとは思ったけど、そういうことだったのね?」
美岬の質問に、ヨシフミはうなずいた。
第15話 星波の報告
に続きます。




