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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第四章 星波、日本にて

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第12話 名乗り


「やっぱり、この()には本性が見えていたんじゃない?

 気絶するだなんて、これはもう、ねぇ……」

 男の声が星波の耳に届く。


「ふざけないでよ。私、きちんと人間の姿とっているし、どっから見たって、ほら、可愛い女子でしょ?」

「はい、特に……、って、えっと、人間の女性ですよね?」

 この返答と問いは悠の声だ。自分の言っていることに、まったく自信が持てていないのがイメージとして伝わってくる。

 星波は、聴覚だけが失神状態から回復しているのに気がついていた。その他の感覚は戻っていなくて、宙をふわふわと浮いているような頼りない心持ちだ。でも、もうすぐ気がつくのだろう。


「いや、でも、中身は、ほら、わがままだし、250歳を超える婆さんだし、性格はキツいし」

 さっきの男の声だ。言っていることはなかなかに辛辣だと思う。しかも、なに言っているのかわからない部分もある。ダーカスの方がこちらより長寿だと父から聞いている。それでも、ダーカスではこちら換算で220歳を超える長老はいないのに、250歳って……。


「ヨシフミっ!!」

 誰かが誰かを叩く音。それはもう相当に強く、容赦がなく激しい音だ。だが、叩かれた方からの苦痛のうめきのようなものは聞こえない。

 あの獣に叩かれて平気なのだとしたら、男の方は常軌を逸して頑丈なのかもしれない。


「というか、今の話だと、正体はヒトとは違うということですか?」

 この冷静な声は、美岬の問いだ。

 そこで、ようやく星波の全身の感覚と、筋肉への神経がつながった。

 がばっと起き上がってみれば、先程と同じく巨大な猛獣がいる。だけど、おとなしく前足を揃えて座っている姿を見ると、怖いのは怖いけど、先ほどまでに比べればいくらかは耐えられるかもしれない。


「その前に、星波さんが気がついたから、確認させて。

 なにが見えたの?」

「巨大な猛獣が……」

「しっつれいねぇ。私のことを摑まえて、猛獣だなんて。

 この姿だって、そんなには怖くないわよ」

 そう言うなり、ソファに座っていた小柄な女性は、巨大な狼の姿に身を変えた。


「ひっ!!」

 ここではじめて瑠奈の本当の姿を目にしたのだろう。悠の声にならない悲鳴が響いた。美岬は床すれすれまで身を低めて、ソファの下に手を突っ込んだ。その行動に一切の迷いはない。高度に訓練された者の洗練された反応だった。


「銃なんか出さないで。冷静ではいられなくなる。私は誰も襲わないから」

 巨大な狼は焦った口調でそう話すと、また女性の姿に戻った。だが、これは先ほどの姿とは違う。先ほどまでは日本人に見えていたのだが、今はどう見ても赤毛の白人の女性の姿なのだ。


挿絵(By みてみん)


「まずは名乗るし、説明するから。

 頼むから銃口を私に向けないで。冷静に話せなくなっちゃうから」

 そう繰り返されて、そろそろと美岬の手がソファの下から引き出される。その手にはなにも握ってはいない。だが、姿勢は低いままだし、その手は小刻みに動いて固着するのを防いでいる。これだと、どれほどのスピードを誇る獣であっても、美岬の発砲の方が早いだろう。


「ありがとう。旦那とはもう話させてもらっているし、奥さんも信用してくれないかな。

 あ、信頼してもらうための材料はこれから話すから。

 私はフランスから来たルーナ。日本での名は瑠奈。来たのは明治維新の直後。美岬さんのご先祖の、美羽さんと美緒さんにも会ったことがある。こちらは、ヨシフミ。まだ二十歳(はたち)そこそこのヴァンパイア。

 それから、私の祖母は、パリの狼のうちの一頭だった」

 その言葉に、悠の指が忙しなくスマホの画面を撫ではじめた。「パリの狼」を調べているのだろう。

第13話 人として生きる選択

に続きます。


挿絵は花月夜れん@kagetuya_ren さまにいただきました。

感謝です!!!!

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