第11話 失神
突然、壁面のディスプレイが玄関だけでなく、この家を中心とした全方位の画像を映し出した。
星波は驚きのあまり声も出なかったが、なにが起きているのかはかろうじて理解した。映像を映し出す魔法もありはしたからだ。だが、それが自動で発動するなど、星波の理解を超えていた。
実は、星波の父、『始元の大魔導師』は魔法の自動化に腐心し、円形施設の自動管理で社会への魔素エネルギーの供給に役立てていたのだが、星波はまだその詳細までは知らない。
まだダーカスではテロなど起きたことはないが、心配性である『始元の大魔導師』である鳴滝は、自動化の詳細情報を公開してはいなかったのだ。技術を確立させたダーカスでも、そのすべてを知っているのは筆頭魔術師のヴューユ、デリン、そしてその装置を作ったエモーリに限られる。
魔法学院でも、各国の魔術師の中枢にしか伝えていないのだ。
それはともかく、映し出された映像から、門扉前に若い男女がいるのがわかった。そして、男の方が門扉のインターホンを鳴らした。
カメラが良いのか、西日で逆光のはずの男の顔は、細部までよく映し出されていた。男でも女でも、ここまで色が白いのは珍しいかもしれない。よほどに陽に当たることがないのだろう。
女の方も色白だが、こちらの白さは、陽に当たっていても白いかもしれない。男とは白さの種類が違うのだ。鼻の上のそばかすが、その違いを際立たせていた。
星波がどうしていいかわからなくて、それでも腰を浮かしたときに、ディスプレイの中で玄関の扉が開くのが見えた。そして、映し出された美岬が2人の客を招き入れた。
そして、客間のドアノブがまわるのと同時にディスプレイが暗転した。客にはこの外部監視システムは見せないことになっているのだろう。相当に考えられた、高度な仕掛けなのだと星波は見て取っていた。そして、星波がもう1つ驚いたのは、悠までもが驚いていたことだ。この家の息子でありながら、この家の機能を知らされていなかったらしい。
このあたりの徹底したやり方に、あらためて星波は驚かされていた。
ドアが開き、2人が入ってきた。
悠は立ち上がってあいさつしようとしていたが、星波は、驚きと恐怖のあまり凍りついていた。
2秒後、身体の制御を取り戻した星波は、今度は逆に口からほとばしりそうになる悲鳴をかろうじて飲み込んでいた。
猛獣の前で叫んだりしたら、喰われる。音を立ててはならない。刺激しなければ、通り過ぎてくれるかもしれない。
その考えが、星波の全身を縛っていた。
猛獣トオーラとは違うものの、この女の正体が牛ほどの大きさの猛獣なのはわかる。尻尾は、長く曲がりくねって毛皮の房で先端まで覆われていた、そして、耳は小さく真っ直ぐで、口は巨大な犬歯がはみ出ていた。全身は赤い毛で覆われ、背中の長さ分の黒い縞模様があった。
「こんにちわ。
はじめまして。私の顔になにかついてます?」
女の方が不審げに聞くが、星波には答えられない。巨獣が舌なめずりをしている前で、どう応じていいかなど、わかるはずもない。
「……なぜ?」
それが星波が口にできた精一杯の言葉だった。
そのままその場に崩れ落ちるのを、なぜか部屋の入口にいたはずの色の白い男が支えた。
第12話 名乗り
に続きます。




