第9話 相互理解
『ヒトとは異質な存在』が魔法を使うということは……。こちらには、人間と同等の知性を持つ亜人種がいるのではないか?
「さすがは異世界ですね。
こちらの世界には、エルフとかドワーフとかいると聞きましたが、本当にいるんですねぇ」
「いない、いない、いない」
星波の言葉に、美岬と悠、母子揃って一瞬凍りついたが、そろって首を横に振った。
悠がぼやく。
「……異世界から来た人に、『さすがは異世界』って言われちゃったよ」
美岬も、うんうんとうなずいて言う。
「やっぱり、外国レベルの断絶じゃ済まないわ、異世界は……」
それに、星波はなぜかかちんときた。わかり合えると思っていたのに、それを否定された気がしたのだ。
「……そもそも、『ヒトであっても、ヒトとは異質な存在』と言ったのは、美岬さんじゃないですか。なんで、そうなります?」
星波の言葉に、美岬は表情を曇らせた。そして、自分の言葉の説明をした。
「ああ、たしかに言ったわね。ごめんなさい。
だけどね、たとえばエルフがいるかもという話は、エルフという種がいるかもという話になるのよ。突然変異で、一代限りでエルフになったとしても、それは人間だからね。類人猿から突然変異でエルフになったとしても、それは類人猿だわ。でも、エルフ同士で子どもを作って、それで代々世代を重ねられるなら、由来はどこであったとしてもエルフという存在が『ある』と初めて言えると思う。
だから、『ヒトであっても、ヒトとは異質な存在』と私は伝えられているけど、今の地球全体で見ても、人類とは別種で、でも人類に匹敵する『ヒトとは異質な存在』は『いない』と思う。結局は『ヒトであっても』で、ヒトなのよ。
前半に重きを置くか、後半に重きを置くかで、言葉の意味が変わっちゃうわね、ごめんなさい」
そう言われて、星波は、自分があまり深く考えずにものを言ってしまったことに気がついた。
美岬が続ける。
「それにそもそも論だけど、人類とぜんぜん違う生き物を想定するとしたら、その生き物が晩ごはんをウチに食べに来るってどういうことよ?
さすがに真は、そこまでの無茶振りはしないと思う。
少なくともコミュニケーションが取れて、同じゲームができる存在である以上、今晩のお客さんはヒト由来の存在なのは間違いないのよ。それに、人類は何万年も自分たち以外の人類と出会ってないしね。
だからね、人類共通の無意識に、亜人類はいないと刷り込まれている。それを揺るがされたショックは大きいわ。まったく自覚していなかったけど、星波さんと無意識領域の断絶があるってのが、ある意味とても新鮮」
なるほど、と星波は思う。
だが、その一方でこうも思う。
美岬がダーカスに来たら、同じレベルのことを言ってしまうのは間違いない、と。だけど、たぶん、世界を跳躍するまでそこの自覚はできないだろう。やはり、異世界との距離というのは同じ世界の外国などは比べものにならない。
そういう意味では、美岬の言葉は至言だった。自分も気をつけねばならない。
「それでも、私たちは共有認識を持つ必要があるし、持てるとも思っている。
あらためて、ようこそ、星波さん」
美岬の言葉に、星波はうなずいた。
その一方で、母ルイーザの置かれた立場の困難さを思って、微笑む気にはなれなかった。
第10話 保険
に続きます。




