第5話 打ち明け話2
「……父さんだけでなく、母さんも、なのか?」
「逆よ。私が真をこの世界に引き込んだの」
悠の絞り出すような問いと美岬の返答に、星波は同情を禁じえない。
自分も世界を救った『始元の大魔導師』の娘ではあるが、まだ父親がなにをしたのか、なにをしているのかを知っている。だが、悠は自分の両親がなにをしているか、まったく知らずに育ったのだ。
星波は、この話の行き先の予想もつかなかったが、双海真の家に住むということだけは聞かされていた。だから、双海家の家族関係は理解している。
つまり、真と美岬が結婚し、悠が生まれたということだ。だが、悠は祖父母の使っている偽名を名乗っていたらしい。悪意ある者からの市役所等の公的機関へのハッキングに備え、さらに息子に対しても自分たちのことを隠していたということだ。
ここの家は、どんな家族の形を作ってきたのか、星波には想像もつかなかった。
「じゃあ、なんで母さんは、料理研究家としてテレビに出たりしているん?
顔がバレたらまずいんじゃない? 目立たずにいた方が……」
「逆よ。今はもう、顔を隠して匿名での活動は通用しない。卒業アルバムをネットで上げられてしまったら、それだけですべてが終わってしまう。なのに、それを阻止するのはほぼ不可能でしょ。何度も、この問題は起きてきたのよ。
なら逆に、引退を機に存在を明らかにしちゃえばいいのよ。私が一番最初に誘拐されたのは、高2のときだったかな。他国の機関だったけど、まぁ、相手がプロであれば、ある程度以上、公になっている人間に手は出さないわ」
「……納得」
悠は頷くしかなかったようだ。
美岬はさらに話を続ける。
「私が真を巻き込んでしまったんだけど……。それでも真は頑張って、私たち以降の世代、悠からは組織から開放されるようにしてくれた。
なのに、まさか悠から志願したなんてね。それこそ、想定外だった」
「まさかって……、コレ、学校で会った、黒服の男たちの話なの?」
ようやく、悠の中でなにかが繋がったらしい。
「ええ。
悠と話した彼は、菊池慧思。父さんのバディよ」
「ヒントを出されたからね。学校の図書館で、昔の卒業アルバムで見たよ。それで、父さんとその菊池さんは卒業年度が一緒だったんだ……」
「だからこそ、菊池くんと悠は会わせないようにしてきたのに、まさかその菊池くんに志願の意思を伝えるなんてね。
……本当に、運命ってのは皮肉なものよね」
美岬のため息混じりの声は、星波の耳にはきわめて切実なものに聞こえた。
「菊池くんは、あの場ですごく悩んだって言ってた。
だけど、一蹴しても悠は喰い付いてきた、と。とはいえ、麻疹みたいなもので、その期間が過ぎてしまえば考え直すだろうと考えたから、熱を冷ますために毎日10km走れと言ったそうよ。普通なら、それでめんどくさくなって熱が冷める、と。
そしたら、毎日欠かさず走りだすって……」
「たまに帰って来る父さんも、それに母さんだって、毎日欠かさず走っているじゃないか。だから、そういうもんだと思っただけなんだけど……」
美岬のため息混じりの話が、ため息ばかりのなかに言葉が紛れ込むという状態になった。
第6話 打ち明け話3
に続きます。




