第4話 打ち明け話1
悠に促されてソファに座った星波は、手持ち無沙汰に周囲を見回した。
あまり新しい家ではなさそうだ。だが、掃除は行き届いている。そして、どこか違和感を感じて落ち着かない。
そして、テーブルを挟んで対角線の位置に座った悠に、その違和感の原因を見つけることができた。この部屋は、まったく音がしていないのだ。自分が座ったことが音が消え、悠も座ったことで完全に無音となったのだ。
これは、この部屋がいかに外界から隔絶した場所なのかを示していた。
無音は人を緊張させる。そのままなにも話せずにいた星波だったが、その無音はすぐに打ち消された。
美岬が入ってきて、お茶の入った大振りな青磁の茶碗をそれぞれの前に置いたのだ。星波は、一度だけ王様にお茶を淹れてもらったことがある。そのときも、こんな青磁だった。それを思い出して、星波は異世界に来ていても、少し和むものを感じていた。
「改めて、鳴滝星波さん、こちらの世界にようこそ」
そう美岬に言われ、星波は慌ててあいさつを返した。
一瞬、美岬の目が青く光った気がしたが、気のせいだろう。そんな魔法はないからだ。
「この度は、お世話になってしまうのですが……」
そう口ごもってしまうのは、語学力の問題だけではない。この双海美岬と悠の母子がどういう人間なのか、わからなくなったからだった。
どう見てもこれは、父の同級生の家というには可怪しすぎる。双海が政府の機関で働いているらしいとは聞いていたけれど、だからといって、自宅を要塞化するのは筋が通らない。それとも、こちらの世界ではこれが当たり前なのだろうか?
「悠、あんたも聞いておいて。
ウチで異世界の女性を受け入れることになった理由よ」
「それは……、このあいだ、学校に蒼貂熊が入り込んできたから?」
「それは原因の1つに過ぎない」
そう美岬に言われて、悠は口を閉ざした。
「悠。
そもそもの話をする。悠の本名が双海悠なのは知っていると思う。だけど、おじいちゃんの家にいて、養子縁組している名字も実は偽名なの。本当のおじいちゃんの家の名字は武藤なの」
「……どういうこと?」
星波から見ても、悠は激しく動揺していた。
それはそうだろう。自分が誰なのか、わからなくなりそうなのだから。
「この家もね、今話していることはすべて外部でモニターされている。然るべき手順を取らないと、そのモニターを切ることはできない」
「母さんの言うこと、ぜんぜん理解できないんだけど」
ここで美岬は大きなため息をついた。
「ウチはね、ああ、ウチの女系はね、代々女の子しか生まれなくて、間宮林蔵に江戸に連れてこられてから私で10代目、みんなそういう仕事についてきたの。ペリーの黒船来航のときにも、江戸幕府のために働いていたし、水戸斉彬の死にも関わっている。各時代の戦争のときも、それなりに関わってきたわ。
だから、悠のおばあちゃんはとっくに引退したけど、それでも身の安全を考えて偽名を使っているのよ。
とはいえ、悠という男の子が生まれた時点で、ウチの一族はこの仕事から開放された。真は引き続いて働いているけど、私も引退したし、悠は自分の好きなように生きることができるようになった。だから、悠にはこの話は一生しなくて済むと、私も真も安心していたの」
星波には理解しがたい話だったが、重要な話をしているのだけはわかっていた。
第5話 打ち明け話2
に続きます。




