第30話 父さん、ウザいっ!
星波は続けて聞いてきた。
「で、敵はそんな間抜けなの?
不意打ちなんて、相手が来るかもと思っていたら成立しないじゃん」
……うちの娘はもうホント、これだもんな。昔のルーみたいだ。いや、それ以上かもしれない。
「そのあたりはもう、父さんにもわからないよ。ただ、この辺りをしっかり考えている人たちもいる。それが父さんの中学の時の同級生だった、双海と菊池なんだ」
「私が生活するところね?」
「ああ」
俺の返事に、星波は黙り込んだ。
……俺はさ、別にいじめられてもいなかったけど、学校じゃ常に2番手以下だった。だから、こういう沈黙の意味をよくわかっている。
星波め、俺に話しても無駄だと思っているな?
で、行った先が担当のところなら、そこで話せばいいとか思っているだろ?
俺は、「ルーになら話せるんじゃないか?」という言葉をすんでで飲み込んだ。
今ならわかる。星波がうちで無口なのは、父親の俺の問題だけじゃない。ルーとあまりに似過ぎているから、母娘でうざいというか、めんどくさいというか、近親憎悪的ななにかがあるんだろうな。ルーは頓着しないタイプだけど、娘の方からすれば、そうも言ってらんないのだろうし。
そして、ルーは年齢とともに周囲の人間関係含めて円熟していった感があるけど、それすら星波にとっては甘いと感じているに違いない。きっと、無駄なことをしているって思っているんだ。
自分の考えを他の人に告げて、賛同を得ながら仕事を進めるという苦労を星波は知らない。また、そうしなければものごとはうまく転がらないってことも知らない。
まぁ、この辺りもこれから学ぶべきことなんだろうな。
そこで、今までおとなしかったルーが口を開いた。俺が星波に対して感じていることを、ルーも同じように感じていたはずだ。そして、その上での言葉のはずだ。
「じゃ、いつから行く?
私は王様からの信任状ができ次第、向こうへ跳ぶつもり。まぁ、異世界への外交文書となると、さすがに何日か掛かるでしょうから、その間にセナの留学のことも話をつけられると思う。ただ、円形施設からの派遣の実行は、ばらばらに行った方がいいかもね」
手っ取り早く出たな、ルー。
コレ、娘の性急さに合わせたのか、退路を断ったのか、俺にはわからない。だけど、このペースでルーが話を進めるときは、きっとなんか考えがある。
「……私だって、支度があるんだけど」
「なにを持って行くっていうのよ。食事から服から、すべて向こうの方が上よ。金を持っていって、あとは先方に任せなさい」
うわ、尻を叩くなぁ、ルー。
「学校の勉強の教材だって……」
「ああ、それも向こうの方が充実しているから。向こうで本屋さんに連れて行ってもらいなさい。どれほどの参考書があるか、圧倒されて言葉も出ないと思うよ」
「友だちにも、なんか言っていかなきゃ……」
「明日言えばいいでしょ。それとも別れを惜しむほど好きな誰かがいるの?」
……えっ!?
「なんだと?
父さんは許しませかよ、そんな相手は!」
「父さん、ウザいっ!」
「いるのか、いないのか、どっちなんだっ!?」
「あああ、いないよっ!
いないけどウザいっ!!」
「ウザいとはナニゴトだっ!?
俺なんか、学校でモテたことなんかないんだぞっ! なのにお前は……」
「……アンタら、そろそろ金払って帰ってくんねーかな?」
……食堂のオヤジ、アンタもウザいぞ。
第31話 旅立ち
に続きます。




