第28話 星波(せな)
ルーが通りに目を走らせていて、声を上げた。
「セナ!」
って。
学校帰りの星波が、独りで下を向いてダーカスの中心に向かって歩いている。
もっと、胸はって歩けばいいのにって思うけど、それはもう、今は仕方がないのかもしれない。でもな……。
きっと自信は人を作る。俺はそれを信じようじゃないか。
「なにしてんの?」
我が娘ながら、無愛想だな。
ま、しかたがない。そういうヤツだ。猫と一緒で、気が向かないことにはとことん無愛想なんだ。
「星波、お前、留学しないか?」
「リゴスの魔法学院?
それはもう決まった話だと思っていた」
うん、そうなるよね。
「違うよ。
その前に、俺の世界で、だ」
「どういうこと?」
「ルーがこちらの世界を代表する大使として、向こうに行くことになりそうなんだ」
「嫌だ」
予想通りの返答だな。相変わらず、身も蓋もない。
「話は最後まで聞け」
「なによ?」
「ルーと一緒に生活すると危険ですらある。事態はヤバいことになっているんだ。戦争もありうる。
だから、星波はルーとは別に内緒で生活することになる」
ルーがびっくりした顔で、俺の袖を引っ張る。そうだな、なんの相談もなく、俺の独断で話しちゃっているから、ルーだってびっくりしているんだろう。だけど俺は止まらなかった。あとで怒られるなら怒られるでいい。怒られたら話はチャラだ。そういうの、星波は何度も見ているからね。それでいいじゃん。
「なんで、そんな状態なのに行かなくちゃならないの?」
「そんな状態だから、だ。これ以上事態が深刻化したら、俺の世界とは絶縁もありうる。そうなったら、二度と行けない。行くなら今のうちしかない」
「……行くとしたら、どこで生活するの?」
……正直、俺だって思いつきで話している。決まっていることなんか1つもない。そして、俺には、俺の世界にそんなことを頼める心当たりは2つしかない。で、そのうちの1つ、本郷の奥さんには頼めない。これからいろいろと注目を浴びちゃう存在だし、そこに怪しい人が1人増えたら、それはもうそういうことだからだ。
「俺の中学の時の同級生のところだ。
そこで、身元を明かさずに生活するんだ」
双海なら、首を横に振らないような気がする。その、「気がする」という一点を根拠に俺は話す。
「……正直に聞くけど。
行くことによるリスクと利益は?」
……まったくさ、俺の子というよりルーの子だよな。こういう賢しさは、子どもの頃の俺にはなかったもんな。
「リスクは高い。身元が割れたら、人だかりができるじゃ済まないだろう。緊急召喚で呼び戻すことになるだろうな。そこはもう、星波次第だ」
「嫌なら帰れるってことだね。じゃあ、利益は?」
……言われてみれば、そういうことか。安全を考えるってことは、そのまま避難経路の確立ってことになるんだな。
「他の世界を見て来れるっていう、それに尽きる。まして今の状況だと、こちらと向こうで危機に対する考え方の違いを肌で感じてこれるだろう。これは極めて得難い体験になると思う」
「……向こうでは、サングラスかけて生活しなきゃなのかな?」
おっ、少しは前向きになったか?
「ま、毎日じゃないと思うよ。 服装とかトータルで見たら、星波は目立つ方とは言えないかもしれない」
ごめんなー。
日本にいたとき、あまり女の子をじろじろ見たという経験がないんだよ。怖くってなぁ……。だから、基準がわからないんだ。
第29話 急所を突く
に続きます。




