第27話 覚悟
食堂のオヤジは言う。
「商売人だってさ、最後に必要なのは覚悟なんだよ。そこに関しちゃ、ケナンやデミウス、トプとも変わらない。だからさ、景気の良いときしか知らないヤツは、商売人じゃねぇんだよ。景気の悪いときに覚悟を決めて踏ん張れるヤツが、商売人なんだよ。
わかるかい、『始原の大魔導師』様。
景気の善し悪しは、俺にはどうにもなんねぇ。だけど、それに相当する苦労はさせられるんだよ。だから、俺は娘をトーゴに送った。
ここで、店を手伝わしていたら、娘は商売人になれねーんだ。そもそも、『娘に料理を運ばせるだけで終わらせるのかい?』って言ったのは、『始原の大魔導師』様、アンタなんだからな。
俺は俺なりに、『始原の大魔導師』様の言葉を信じてやっているんだよ」
……耳が痛いよ。スゲー痛いよ。
そうなんだよな。
学校を作ったとき、親御さんたちは家業の下働きにしていた娘、息子という労力を失うのが嫌で、「行かせられない」って声が多かったんだ。
俺は生徒集めに必死だったし、それぞれに説得して、子どもたちをみんな学校に集めた。無償の給食だって、「タダメシが食えるんだから、子どもを学校によこせ」っていう口実として始めたぐらいなんだ。
で、そんときした説得の言葉が、今の俺にブーメランで返ってくるとはね。
くっそ、俺は、自分の娘のこととなったら、とたんにダメじゃねーか。ルーだって甘々だけどな。だけど、ルーのしてきた苦労は、星波の比じゃない。
ルーは、この世界が滅びに瀕していたとき、世襲を禁じられていた魔術師の娘なのに、内緒で魔法を使って人助けしていた。命懸けで猛獣と魔法で戦ったことすらあったんだ。コレ、バレたらそれこそ懲罰の対象なんだよ。
あの時代、魔素をコンデンサに貯める技術は失伝していた。だから、魔術師は体内の魔素を使うしかなく、それは早死に直結していた。だから世襲を禁じられていたんだよ。
そうでないと、魔術師になろうって人がいなくなっちゃうからね。
そして、魔術師は一代貴族として生活は保証されていたけど、「ノブレス・オブリージュの掟」に縛られている。魔法に対価を求めちゃいけなかったし、断ることもできなかった。これはルーにとって、魔術師の父親さんが死んだら、家業も継げないまま路頭に迷うことが決まっていることを意味した。
それでもルーは、自分が一代貴族にもなれないのに、「ノブレス・オブリージュの掟」を自分に課していたんだ。
そんなルーだったから、小生意気な小娘であってもダーカスの人たちから密かに尊敬の眼差しで見られていたし、そんな関係に俺も助けられてきた。
それに比べたら、星波の苦労はまだまだ甘い。
「これを食え」
食堂のオヤジが、チテの葉の茶と一緒にロクムを差し出してきた。
うん、いい甘さだ。芋のデンプンと蜜を熱して混ぜ、そこに練り込まれた木の実がいい味を出しているお菓子なんだ。
食堂ってのも、元々は対価を取っちゃいけないものだった。客に対する布施から始まっていたからね。だから、代金も払うんじゃなくて寄付をするという形だった。だから、食堂にメニューなんかなかったし、あるときにあるものを気分次第で作るってもんだったし、オヤジはもっと偉そうにしていた。
ときどきその片鱗は顔を出すものの、オヤジも丸くなったんだよな、これで……。
第28話 星波
に続きます。




