第26話 ダーカスの街で4
「茶菓子分は払うよ。小腹が満たせたらいいな」
俺は、食堂のオヤジにそう返す。
「任せな。ほら、どこへでも座んなよ」
「ありがとう」
俺はそう応えて、ルーと外の通りが見渡せるテーブルについた。
始めてこの世界に召喚されたあと、最初の食事はこのオヤジの作ったスープだった。それから肉の壺焼きとか数え切れないほど食べた。屋敷に専属の調理人が配属されてから頻度は減ったけど、それでもたまには食べに来ているんだ。とはいえ、街なかの店の方で、こちらの郊外店は初めてだけどね。オヤジは交互に両方の店に顔を出しているから、ま、捕まったのもしかたない。
「娘は元気かい?」
「ああ、トーゴの2店舗切り回しているけど、評判はいい。『始原の大魔導師』様のお蔭で、うちの家族はばらばらだ。かかあはエフスの店だしな」
「そりゃ、悪いことしたね」
「なに、会いに行こうと思えば、川を降りゃすぐに行ける。それより、娘は学校行かせてよかったよ。こんなに自分の店が大きくなるたぁ、思っていなかったからな」
そうなんだ。
支店を出せと言ったのは俺だし、その際に娘が読み書きができなきゃ手紙も送れないぞって言ったんだった。
「でもさ、今の言い方だと俺が悪いことしたみたいだよね。家族がばらばらだって」
一応はそう言っておく。ま、今に始まった話じゃない。食堂のオヤジはいつも、こう言うんだ。だから、俺もいつものようにこうツッコむんだよ。
「とんでもねぇよ。
顔つき合わせて20年近くやってきた。これで自然に距離が開いて、な。喧嘩なんかまったくしなくなったんだよ。これはこれでいいことじゃねぇか。『始原の大魔導師』様んちは、毎日顔つき合わせていて、よく喧嘩しないな?」
「してんだよ。
ただ、毎回俺が負けて、それで終わりさ。結果としちゃ平和なもんさ」
俺の返しに食堂のオヤジは大笑いし、ルーはむっとした表情になった。
ま、ルーの性格は昔からダーカスにいた住人にはバレバレだから、今さら取り繕っても仕方ないんだけどね。
「だけど、まだまだ若い娘によくもまぁ、トーゴの2店舗を任せたね。奥さんのエフスの1店舗と逆にすることは考えなかったんかい?」
いつもはメシ時で忙しぶっている食堂のオヤジが、さすがに今の時間は暇そうだったんで、俺は聞いてみた。ま、間をもたせようって意味しかない問いだったんだけどな。
「そりゃ、悩んださ。特にトーゴは港町だ。船であちこちの得体のしれないヤツも来る。年頃にすらなりきっていない娘を放り出すにゃ、いい場所じゃない。トーゴの長のデミウスも頑張っちゃいるけど、限界もあるからな」
「なら、なぜ?」
そう聞いたのは、俺ではなくてルーだ。
「俺は冒険者じゃない。ケナンやデミウスみたいなことはできねぇ。軍人でもねぇから、トプみたいなこともできねぇ。でもな、『始原の大魔導師』様が来てくれる前から俺は商売してきたんだ。そりゃ、いろいろなことがあった。かかあも何度も泣かせたよ。
だけどな、『始原の大魔導師』様が来てくれてから、商売は上手く行ってる。いや、上手く行き過ぎてる。
コレじゃいけねぇんだよ」
「商売が上手く行っちゃ、まずいんかい?」
俺はさらにそう聞いた。
第27話 覚悟
に続きます。




