第25話 ダーカスの街で3
ルーは続ける。
「各ジャンルに1人ずつ、100人が留学して帰ってきたらどうなりますか?
セナはこの世界でのたった1つの存在ではなくなる。本郷殿の息子の聡太殿しか、わかり合える相手がいないという状況でもなくなる。
そこまでは親として、生きていく環境を整えてあげたい」
……この理由はもう完全に私事だな。
だけど、それ以上にダーカスに益が大きいけどね。
それはそうと、そろそろ学校帰りの星波とすれ違うかもしれない。
保育園と小学校は王宮の中に設けられたけど、中高に相当する学校は郊外に設けられたんだ。急激な人口増加で、王宮の中にもう一部屋増やすなんてことじゃ済まなくなったからだ。
星波本人にも、考えを聞いておく必要があるだろう。俺とルーも、なんとなくそんな考えもあってここまで歩いてきたんだ。もっとも、ゆるいサークル活動みたいのも始まっているから、そっちに行っていたら会うことはない。だから、「会えたら話が早いな」ぐらいの意識しかないから、それはそれで構わないんだ。
屋敷には使用人もいるし、隠れるようにしてルーと深刻な話をしていると気が滅入る。こういう街なかの賑やかな喧騒の中での方が、間違いのない答えを出せる。
星波も、親と顔突きつけて話すより、冷静に考えることができるだろう。どうしたって俺たちは、星波にとっては「すべての厄介事の根源」だからね。
俺も星波のことは、考えてはいたんだ。
星波をルーとともに日本に連れて行く選択肢もありはする。だけど、ソレは避けたい。
俺を受け継いだ黒髪は目立たなくていいけど、ルーを受け継いだ金色の瞳は目立って仕方がないだろう。そして、ここ以上に日本で星波はその存在を大騒ぎされるだろう。そうなったときのタチの悪さはここの比じゃない。
ここでなら、「これ食べてお行き」と食べ物押し付けられて済むけど、日本だったら盗撮から始まって、ネットから週刊誌まで大騒ぎするに決まっている。そして、そこから、一定の割合で生じる悪意が向けられるようになる。
そういう意味では、ルーだって危険だ。だけどルーは公人として行くし、すでに人の親だ。見た目はJKのようでも、おのずからその扱いには一定の枠が掛けられ、悪意からは守られるというか、悪意の方から興味を失うだろう。
「たまには、メシでも食ってかねーか!?」
不意に声を掛けられて、俺とルーは足を止める。ああ、食堂のオヤジだ。あいかわらず、金のお玉を振り回しながら、口八丁手八丁で働いている。だけど、すでにダーカスで2店舗、トーゴでも2店舗、エフスに1店舗で、計5店舗のオーナーで、やり手ぶりを発揮しているんだ。
ちなみにここはネヒール川に近い町外れ、ダーカスでの郊外店になる。
「メシはともかく、高い茶を飲ましてもらおうかな」
俺がそう言うと、食堂のオヤジはふんっと鼻を鳴らした。
「取れるかよ。茶だけで『始原の大魔導師』様から金ふんだくったら、俺の評価が落ちるじゃねーか」
チテの茶一杯で銅貨3枚とか、相当にボッた価格設定から始めた街角カフェだけど、今は20枚くらい取っているらしい。
それを負けてくれるなら、ま、ありがたいよね。
第26話 ダーカスの街で4
に続きます。




