第23話 ダーカスの街で1
王様は俺に、最終的な決断を求めなかった。
俺はお開きになった会議を反芻しつつ、ダーカスの街を歩く。横にはいつものようにルーがいる。
ルーは昔と変わらない。娘を産んでからも、JKと見まごうばかりの姿のままだ。なんせ、こちらの魔素を含んだ水の力はすごい。微量の治癒効果があるとは言われていたけど、老化を遅らせる力もある。で、こっちの方は、こっちの世界では当たり前過ぎて認識されてなかったんだ。
王宮の中の小学校が授業を終えて、俺たちを子どもたちが走り抜いていく。
みんなみんな、俺とルーを抜くときに律儀に一礼していくのが可愛らしくもあり、誇らしくもあり、照れて恥ずかしくもある。
それでもだんだんに貧しかったころの過去は忘れられ、老害扱いされていくということはわかっているんだ。そうなる前に、また旅に出よう。俺はそう決めている。
子どもたちを見送り、屋台から漂う焼いた肉の匂いを楽しんでいる俺にルーが聞く。
「ヴューユ、御前会議の結論があとから変わっちゃったけど、首を縦に振るかな?」
「制度としては、条件を満たしているからダメとはいえないんだけどね」
俺はそう答えるけど、ルーは魔術師になったことで、その立場としては筆頭魔術師のヴューユさんの下に付くことになるからね。複雑な思いを抱いているんじゃないかな。
「ま、大丈夫なんだとは思うけどね。ヴューユは、自分が本当の筆頭魔術師とは考えていないから」
「まぁね」
俺は、そんな煮えきらない返事をする。
ヴューユさんは、一度は筆頭魔術師の座をデリンさんに譲っている。だけど、魔術師が歳を取れるようになった結果、魔法技術の進歩も目覚ましくて、デリンさんはリゴスの魔法学院に再度の留学に行かねばならなくなった。
当初、留学制度は若い魔術師のためだったんだけど、術の高度化、複雑化で、老練な魔術師も学ばないとついていけなくなったんだ。
で、一時ということでヴューユさんが筆頭魔術師に復帰したんだけど、なんか態度とか発言も前より控えめって感じになっちゃっている。
ま、それでも、ヴューユさんはヴューユさんで、変わらずいい考えを出してくれはするんだけどね。
そろそろ本題に入ろうか。
「ルー。今さら隠せもしないから言うけど、ルーが俺の世界に行くことに、どこまでも反対はできないんだろうなとは思っているんだ。
でも、だからって、大賛成なんて話にもならない。
正直なところなにを考えている、ルー?」
「……留学ってこと」
「ルーが?
俺のいた世界に?」
俺の問いに、ルーは首をぶんぶんと横に振った。
「気がついているでしょ?
ちょっと前から、ダーカスの進歩はその速度を落としている。もちろん、リゴスやエディでもそれは変わらない。いくらかでもマシなのはブルスだけ」
「知識を定着させるためには、落ち着いた期間も必要だと思うんだけどな」
俺の言葉に、ルーは再び首をぶんぶんと横に振った。
「たぶん、そういうことじゃない。あちこちで、ブレイク・スルーが起きなくなっている。
きっと、本を読んで、というだけでは越えられない壁があるんだと思う」
……言いたいことはわからなくもない。だけど、ルーはどこからそう思ったのだろう?
「具体的には?」
俺の質問に、ルーはちょっと考えてから答えた。
第24話 ダーカスの街で2
に続きます。




