第19話 大臣の懸念
王様に「はい」と頷いて見せて、俺は自分の考えを説明した。
「魔術師は、『ノブレス・オブリージュの務め』を負っていますよね。苦しんでいる者がいたら、それを見過ごすことは許されません。それ、魔術師さんたちがみな、昔から生命を削ってまで守ってきたことです。
コレ、つまりは、傷ついた蒼貂熊がいたら、治癒するべきということになりませんか?
だって、蒼貂熊が家畜だったり戦闘のための侵略生物であるって可能性は高いけど、まだ証明はされていないんでしょう?
で、その魔術師の『ノブレス・オブリージュの務め』を、特定の相手にだけキャンセルするには、しかるべき国家間の約定が必要かと思うんです。
魔術師と国家の関係って、昔からいろいろありましたけど、今回はこれ、言えると思うんですよね」
「……なるほど。
治療代など最初から取るつもりはなかったが、だからこそこうしないと筋が通らぬというのはわかる」
王様は同意してくれたけど、大臣が不安そうな顔になった。
「となると、ルイーザがナルタキ殿の世界で、神だの救世主だのという扱いになりませぬか?
不要な神格化は良いようでいて、のちのちまで禍根を残しかねませぬ。我々は、所詮は人間に過ぎぬのですから。
それに、ダーカスを神々の国と認識されても困るのではないですか?」
そうだな、それは困るかもしれない。
「問題は、誰に認識されるのか? ということかと」
ルーがそう言ったけど、大臣は納得しなかった。
「向こうの為政者はそれほどの馬鹿ではあるまい、と?
だが、ナルタキ殿の世界は多数決でものを決するのだぞ。大きな波が生じたら、為政者といえども抑えきれるとは思えぬ」
……うん、それもそのとおりかもしれない。
そこで俺、また口を出した。少なくとも自分がいた世界については、俺が一番くわしいはずなんだからな。
「では、対価を取りましょう。
高い対価をふんだくれば、神とは見られません。で、今までの話との整合性は、金のコンデンサが途方もない値段だとすればいいのです。ルーの治癒魔法はタダだけど、金のコンデンサの使用料、運搬料がとんでもないってするだけで、ルーは神格化されません。
『魔術師の服』の布地が再現できたら、金のコンデンサの運搬料が下がったということで、それからは『ノブレス・オブリージュの務め』に従えばよいかと。
で、そうなったとしても、人は一度高い対価をふんだくられたことを永遠に忘れません」
「……一理あるな。
しかも、その論理立てだと、ナルタキ殿の世界はそれこそ大急ぎで『魔術師の服』の布地の再現に急ぐことになろう。民からの突き上げは大きいはず」
おお、王様、そのとおりですよ。
それでも、大臣の顔は厳しいままだった。
「では、さらにもう1つだけ。
先ほど軍事同盟ではなく、としたのは、我々の世界の安全のためでした。方針変更後のそれをどう担保されるのか、それを伺いたい」
「それは、蒼貂熊を送り込んでくる相手に、話が通じる前提でよいのですよね?」
ルーの確認に、大臣は頷いた。
「話が通じぬ前提であれば、そもそもの交渉が成り立たぬ。なにを考えても仕方がない。ただ戦支度をするのみよ」
……大臣ってば、案外腹が座っていたのな。カッコいいこと言うじゃん。
「……ならば、1つ、思いついたことがあります」
思いつきなら任せろ。
考えるのは苦手だけどな。
第20話 俺の策
に続きます。




