第12話 思い出話
その日の午後。俺とルーは王様の部屋にいた。青磁の湯呑みで、王様がみずからチテの茶を淹れてくれた。
もちろん今は、陶器だって焼ける時代が来ている。家畜の糞しか燃やすものがなかった苦難の時代は去り、燃料は貴重ではあっても困窮というほどではなくなっている。だけど、その苦難の時代より前、『一千億も人がいたころ』と呼ばれた時代に焼かれたこの青磁の湯呑みは、国宝に等しいものなんだ。
やはり、『一千億も人がいた頃』に作られた古い木のテーブルの上に、俺の中学のときの卒業アルバムが広げてある。ルーがさっそく召喚してくれたのだ。ルーも今や中堅以上の魔術師だし、魔素もほぼ無限に使えるから、朝飯前ってやつだ。
でもさ、まさかね、そんなもんを召喚する日が来るとは思わなかったよ。元いた世界では異世界もののノベルが流行っていたけど、こんなもの召喚した例はないんじゃないか?
だって、卒業アルバムなんて、異世界で役に立たないものナンバーワンだと思うからね。
俺はたくさんの写真が並んでいる中から、これが双海だと指を指す。
「……ほう、これが昔のナルタキ殿。これはまた御貧弱な……」
うるせぇ!
王様、いくらなんでも面と向かって言うんじゃねーよ。見るなら俺じゃなくて双海を見ろよっ! せっかく指さしているんだからよっ!
「なるほど、これが双海という者か。どことなく影を感じるな」
やっと王様、まともに俺の卒業アルバムを見てくれた。
「……ある意味、仲間でしたから。でも、双海には姉がいました」
俺の言葉に、王様はいろいろと察してくれたようだ。
「……ナルタキ殿は天涯孤独であったな」
「今は違いますけどね」
「ふむ」
そう唸って、王様はしげしげと双海の顔を見続ける。
そうなんだ。
俺に親はいない。捨てられていたとは思いたくないけど、まぁ、そういうことだ。だから、俺の本籍は市役所の住所になっている。
兄弟もいるかもしれないし、いないかもしれない。だけど、それを知る方法はない。
そんな俺に対し、双海は交通事故で両親を失ったばかりで、姉と二人暮らしだった。
なまじ親の記憶があるだけ、俺より辛かったかもしれない。最初からいなければ、こういうものだと思えるからね。
そういえば、思い出してきたぞ。
あいつ、宗教書だの心理学だのの本を必死で読み漁っていたな。
中学校の教室で、そういうのはとても目立った。だけど、誰もなにも言わなかった。そりゃあ、今から考えればあのときの俺たちはガキだった。だけど、両親を失った直後の級友が悲しみに藻掻いているときに、それを茶化すことなどしないだけの分別を持つぐらいには大人だったんだ。
「ま、双海はすごく苦労はしていたけど……、たぶん高校生だった双海の姉はもっと苦労していたってのも今ならわかりますけど。
それでも双海は優秀で、そこそこの高校に行きましたし……。そこですっげー美人の彼女ができたと噂を聞きましたから、それはそれでよかったんじゃないですかね。
本郷の奥さんの話が本当ならば、たぶん日本中で知らない人はいないほどのきれいな人ですよ。料理研究家でテレビ出てるっていうんですから。
で、そのあとは県外の大学に行ったって話が最後で、以降はなにも聞いていません」
「では、在学中にそのような組織との伝手ができたと考えるべきなのだろうな」
「そうですね。高校生でそういう世界に足を突っ込むとは考えられないですから、大学生の時だったんでしょうね」
俺の言葉に、王様は深く頷いた。
第13話 お役所仕事
に続きます。




