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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第41話 完落ち


 双海の言葉はどこまでも鋭かった。

「とぼけるな。

 みんなわかっているんだ。お前の旦那が蒼貂熊(アオクズリ)を日本に呼び込み、ここまでの死傷者を出した。子供たちが何人死んだか、数え切れないほどのな」

「お、夫は、そんなことはしていません!」

 本郷の妻の否定の言葉は、悲鳴に近かった。

「なるほど、やはり本郷は生きているわけだ。白状したな」

 双海の再度の決めつけに、本郷の妻はがっくりと肩を落とした。最短距離で完落ちさせられたのである。見事な手並みとしか言いようがない。


「話を聞かせてもらいます」

 菊池が、双海とは打って変わって優しい声で聞く。

「本郷は、そんなことはしていません。本郷は、おっしゃるとおり、異世界にいます。でも、そこには蒼貂熊はいません。それどころか、人間以外の大型の動物すらほとんどいません」

 動揺が隠せず、途切れ途切れに本郷の妻は話す。菊池の声は、さらに穏やかなものになった。


「それで、牛だの羊だのまで送り込んだんですね。子牛を建築士が買うなんて、普通ならありえませんからね。すぐに聞こえてきましたよ」

「そうです。

 鳴滝さんが、滅びに瀕していたその世界を救ったのです。農産物も家畜もろくにないところから、子供たちがご飯をお腹いっぱい食べられる世界にしたのです。

 これは、本当なら私の夫が行くはずでした。ですがタイミングが悪く、トラックに轢かれて体の半分を失った状態で召喚されてしまったのです。生命はとりとめましたが、そこまででした。でも、召喚されなかったら間違いなく死んでいましたから、良かったとしか言いようがありません。

 夫の契約では、夫にもしものことがあったときは鳴滝さんが行くことになってました。鳴滝さんの同意も得ずに、夫が勝手に決めていたんです。それでも、鳴滝さんは向こうの世界を救い、私も良くはわからないのですが、豊富に得られるようになった『魔素』を使って、夫の四肢の回復までしてくれたのです」

 その言葉に、一番ショックを受けていたのは瑠奈だった。


 話からして、本郷の妻の言う「魔素」が「生気(プネウマ)」であることに間違いはない。そして、それを豊富に得られるということの意味を、瑠奈は一番良くわかっていた。

 治癒も、金の生成も、すべて桁が違う。おそらくは、それを扱う技術も、だ。

 今この瞬間、薔薇十字の秘儀は児戯に等しいものになったと思わざるをえない。



 菊池の質問は続く。

「では、金を換金していたのは、異世界間貿易のためですか?」

「そうです。

 向こうはいいところです。人も穏やかで優しい。魔法もある。でも、高度な工業生産品はない。一生懸命学んでいますが、自給にはもう少し時間がかかる。そういうものは、魔法ではどうにもならないんです。だから、今時点での適正技術を磨き、次の段階に進んでいかねばならないのです」

「きれいごとではないのか?

 そっちの世界が力をつけたとき、その魔法まで使ってこちらに攻め込んで来るんじゃないのか?」

 そう割り込んだ双海の声は厳しい。本郷の妻はびくっと体を震わせたあと、首を一心に横に振った。


「向こう側からは戦争できません。絶対的に金属資源が足りませんから。魔法でも、無から有は生じないので、無理なんです」

「どういうことだ?

 金は豊富にあるんだろ?

 金属がないとは信じられないし、こちらの兵器を買って帰ることだってできるはずだ」

 双海の追求は厳しかった。

第42話 安全保障

に続きます。

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