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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第40話 到着


 たしかに薔薇十字の医療技術は進んでいる。だけど、身体半分を失っても再生できるなんてことはない。そんなことが可能ならば、中学の時の同級生が若年性のがんに罹ったとき、もっとずっと楽に対処できた。

 だが、双海と菊池を同じ組織の人間と同等には扱えない。だから、薔薇十字の医療技術で「できる」とも「できない」とも言えない。それを言うにはまだ、警戒心が勝る。

 そのためにヨシフミの言葉はこんなふうになった。

「宅配業者に頼んで、金を送ることはできるでしょ?」


「それでは問題の本質が変わらない。鳴滝と本郷の奥さんの関係は継続しているんだ。そもそものことを言えば、あのとき我々は金融機関情報も洗った。鳴滝は、本郷の奥さんに、会社を清算したときに過分と言えるほどの(かね)を渡している。義理は果たしているんだ。さらに加えて(きん)を渡す意味なんかない。本郷の奥さんが食えないのならわかるが、彼女は建築士でそこそこの給料ももらっているし、鳴滝はそれも知っている」

「本郷の奥さんと鳴滝が不倫していたという可能性は……」

 これは瑠奈の質問だ。話に出てくる鳴滝も本郷も知らないのだから、ある意味その質問は当然のものだった。


「一番最初に洗った仮説だ。我々は、否定せざるをえなかったんです。

 本郷が死んだとされたあとに鳴滝も姿を消している。本郷の奥さんと鳴滝がデキていたなら、もっと入り浸っていなければ可怪しい。疑えば疑えるけど、警戒して1年、間をおいたなんてレベルじゃない。もう何年前だかの事件なんだから、普通なら、警戒を解いていておかしくない。旦那が死んで2年後に恋人ができたなんてのを、非難できる人なんかいないんだから」

 菊池がそう言う。組織として調べ、その結果なのだから、これは間違いのない事実なのだろう。


「じゃあ、異世界はいくつもあるんだと……」

「……そういうことになるな。菊池の仮説が正しく、本郷が生きているならば、だ」

 その結論の重さに4人が黙り込んだとき、ヘリは降下を始めた。

 推測を考える時間は終わった。現実と向き合う時間の始まりである。



 所轄警察の建物は、のほほんとした日差しに包まれ、その中にとんでもない真実を隠しているかもとは思えなかった。

 ヘリポートまで迎えに来ていた警察の人間が、4人を取調室までエスコートした。そして、その中には本郷の妻がいた。

 殺風景な灰色の部屋の中で、そこだけ少し明るく見えた。髪はショートでスーツ姿の、仕事ができそうな女性である。年齢に比しても相当に若々しい。だが、その表情は固く、口元はぎゅっと引き絞られていた。

 もちろん、息子とは引き離している。つまり、本郷の妻への尋問に失敗しても保険はある。


「旦那はどこにいる?」

 いきなり双海がぶつけたのは、この問いだった。ヘリコプターの中で立てた仮説をそのまま使っている。一見乱暴で思慮が足らないようにも見えたが、この言葉の効果は絶大だった。

「なんの話ですか?」

 本郷の妻はそう問い返すが、その声は冷静さに程遠いものだった。瑠奈とヨシフミにも、菊池の仮説が正しいと悟ることができた。

 そもそも、「旦那はどこにいる?」といきなり聞かれたら、わけがわからないという怪訝な表情にならなければならない。本郷が生きているからこそ、「なんの話ですか?」と聞き返してしまったのだ。そして、その失態を招いたのは、双海のいきなりの質問だったのだ。

第41話 完落ち

に続きます。

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