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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第38話 移動


「15分でヘリコが来る。直ぐに移動を」

 次の瞬間には双海にそう急かされて、ヨシフミは今まで見たいろいろな映画を思い出していた。

 核爆弾が落ちてきただの、宇宙人が攻めてきただののときに、SPたちがてきぱきと大統領を避難させるシーンを、だ。

 生で目の当たりにするこの疾走感に、ヨシフミはヴァンパイアとしての能力を、自分は活かしきっていなかったと改めて後悔させられていた。ヴァンパイアは人間より遥かに能力が高いはずだ。だけど、双海と菊池には勝てる気がしなかったのだ。


 瑠奈が空になっているカフェ・オ・レのカップを置いて立ち上がり、余計なこととは思いながらヨシフミは3人分のそれを洗った。たぶん、その姿は双海と菊池にすらはっきりとは見てとれはしなかっただろう。身体を半ば霧化させての高速作業だったからだ。

 この行動自体に特に意味はない。ただ、ヨシフミは双海と菊池に対抗したくなっただけなのだ。このままだと、人間に大きく劣るヴァンパイアになってしまいそうで、誇りと自信が揺らぎそうだったのだ。


 5秒のうちの3秒がすすぎ、あとは水栓を全開にして水が落ちてくるまでの時間がロスになった。3つのカップを洗った時間は1秒に満たない。

 双海と菊池が驚きの表情を浮かべ、瑠奈は無表情になった。きっと、ヨシフミが余計なことをしたと思っているのだ。


 でも、ヨシフミはやってよかったと思っていた。

 双海と菊池がヨシフミを見る目に、畏怖が混じったのだ。

 双海と菊池が敵ではないとは思っている。それどころか、これから互恵関係を結べる良い相手だと思っている。だが、だからこそこちらの領域は守らなければならないし、そのために実力を見せておくことも重要だとヨシフミは思ったのだ。


 それに、瑠奈が話したことに対して、これほどの裏付けがあるだろうか?

 人間の関節では、水栓を開き切るだけの行為でも一度の動きではできない。そういうように作ってある水栓もあるが、これはそうではない。

 この動きのまま、ヨシフミが武器を手に取ったら……。

 双海と菊池が、恐怖すら感じるのは当然のことだった。



 部屋を出た4人は、すぐに救急病院の屋上のヘリポートに向かった。

 ヘリポートに駆け上がったのと、ヘリコプターが轟音とともに着地したのが同時だった。

 双海と菊池が手慣れた感じで瑠奈とヨシフミをエスコートし、10秒と経たないうちにヘリコプターは再び空に舞い上がっていた。


 ヘリコプターの中でも、情報は次々と入ってきた。ヘッドセットを通して、次から次へと報告が途切れることがない。

「本郷の奥さん、身柄確保。息子の本郷聡太も、だ。すでに、所轄に連行中。

 息子は、相当に優秀らしい。大学では首席だとよ」

「ほう、専攻は?」

 そう聞いたのは双海だ。


 菊池は複雑な表情になって、その問いに答える。

「電子工学。だけど、取っている単位が滅茶苦茶だ。専門外まで幅広く、現役でありながら聴講生になってまで知識を得ている。工学部にいて農学部の単位を取るなんて、本来ならどうやったって無理だろ?

 鳴滝が物資でこちらからのものを異世界に持ち出しているとしたら、本郷聡太は知識を持ち出そうとしているな」

「これは確信犯だな。

 だが、オッドマンが自信を持って行動していたことを考えると、可能性は2つしかない」

 その言葉に菊池が深く頷いた。

 瑠奈とヨシフミは、口を挟まず、ただただ聞き耳を立てている。

第39話 到着

に続きます。

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