第18話 保健室の限界
とはいえ宮原の言うとおりで、校内で怪我人のことが一番わかりそうなのは保健の先生だけだ。だけど僕、保健室なんて行ったことがないし、その帰結として保健の先生の名前も知らない。鴻巣も似たようなもので、だから生徒会長で顔が広いにも関わらず連絡先を知らないんだろう。
とは言え、待つほどもなくLIMEの着信音が鳴った。
「保健の篭原先生、職員室にはいないそうだ。だけど、こちらに連絡をしてくれるようにする、と」
早いな、鴻巣。たぶん、生徒会長ともなれば教師との信頼関係ができているんだろうな。これは半分皮肉だけど。
「蒼貂熊が出たって放送されたのに、篭原先生は逃げなかったのかな?」
100年も前から篭原先生の名前を知っていたような口調での僕の質問に、鴻巣と宮原は揃って首を横に振る。「わからない」という意だ。まぁ、そりゃそうだよね。
で、次の瞬間、またもや鴻巣のスマホがLIMEの着信音を鳴らした。
それを受けて、鴻巣は一心不乱にスマホに指をすべらせ始める。
辛抱して辛抱して、でも僕、5分くらいしか持たなかった。
「どうなってる?」
ついに口に出して聞いてしまう。その僕の問いに、鴻巣は少し複雑な顔になった。そして、そのままもう1分ほど指をすべらせたあと、視線を上げて僕たちの顔を見渡す。バリケードを作っていた連中も教室に戻らず、みんな不安そうな顔で僕たちを取り囲んでいる。そりゃ、この状況で情報が欲しくない奴なんていないよな。
「まず、保健の篭原先生、こうなることを予測して保健室に隠れていたそうだ。職員室だと対処できないことがある、と。確率的に、蒼貂熊が保健室に踏み込んできて家探しするってのはそうはないだろうってのもあった、と。人数が多いほど危険が増すけど、一人きりならまず見つからないだろうって。
ただ、そうはいっても、保健室にあるもので治療に使えそうなものはほとんどないらしい。副木は保健室の装備としてあるけど、完全に折れちまってズレた骨を、レントゲンもないのにきちんと整復して戻すなんて絶対できないそうだ。だから、副木で固定しても、動かないことで痛みがいくらかマシになる以上の意味はない。てか、もうこうなると副木でなくて単なる角材でもいいから、保健室まで取りに行く必然がない。
当然、頭部にダメージのある間藤に対しても、なにもできることはない。本当に、なにもないそうだ。と言っても、それでも担架はあるとのことだから、間藤を揺らさずに運ぼうとしたら絶対必要だろう。
それから、さっき中島が飲んだ薬よりもう少しマシな消炎鎮痛剤があるよ、と。
痛みを感じ続けている中島の辛さを思えば、これはマジで入手したい。だから、担架と消炎鎮痛剤の2つを、蒼貂熊の目をかすめて1階の保健室から3階のここまで運ぶ手段を考えないといけない」
鴻巣の説明に、みんなうなずいた。
そこで、坂本が質問した。
「なるほど、鴻巣の言うことはよくわかる。リスクを冒して担架は運ぶ意味はないんじゃないのか?
担架で間藤を運べるということは、蒼貂熊の危険が去ったということだ。蒼貂熊の危険が去っているなら、それから担架を運んでもいいってことになる」
「それはそのとおりだ」
鴻巣は全面的に坂本の指摘を肯定し、そして続けた。
「担架使用の想定はそこじゃないんだ」
と。
あとがき
校舎の見取り図、再掲しときます。
第19話 提案
に続きます。




