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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第35話 過去の事件


 菊池は答えた。

「知らないな。

 ラクスマンは函館に上陸しているし、そういう機会ならばいくらでもあったろう。

 また、鎖国をしていたって、当時の松前藩も北海道沿岸に隈なく見張りを立てられていたわけでもない。樺太から北海道まで、あの地域で移動するつもりがあればどうとでもなったろうから、当時のロシア人が1人も入り込んでいないなんて誰にも言えないだろう。

 というより、これ、すでに悪魔の証明になっているぞ。なにがあった?」

「御徒町に大量の金が売りに持ち込まれて、300年前のロシアに関わるものだとさ。

 相手がロシアだから公安が裏取り始めたけど、手に負えないからとうちに話が回ってきた。うちは、アメリカにもロシアにも、幕末以来、200年近い歴史的経緯があるからな。なにか思い当たることはないか、とさ」


 それを聞いた、菊池はため息をついた。

「ややこしい話らしいな。

 だが、時効も絡むし、ロシアという言い訳が作り話で国内で宝探しに成功したからって、別に問題はないだろう?」

「いや、2つ大きな問題がある。

 1つ目だが、その話に縁があるというロシア人女性が、買取の店まで同行したらしい。所有権が日本人の方の分だけを売るっていうので、身分証明までは求めなかったらしいんだが、防犯カメラに残ったそのロシア人女性に該当者がいない」

「密入国ってことか?」

「それどころじゃない。

 顔認識システムで、ロシアに限らず全地域検索をかけても出てこない。当然のように指紋もだ。白人は、一番データベース化が進んでいるのに、出てこないってのは異常だな」

 今は顔写真1枚から、長くても30秒足らずで身元は判明する。

 いくら整形をしても、その個人の固有の特徴になる決して動かない場所は残る。顔認識は、完成され、枯れた技術なのだ。


「……2つ目はなんだよ?」

「持ち込まれた金の純度だ。

 怪しいから、微量分析にかけて、不純物の構成比からどこの産地の金かを突き止めようとした。

 通常、市井で売買されている24kは、99.99%だ。実験試薬レベルで99.997%、特級試薬ですら99.999%らしい。

 それがだな、99.9999999%を超えている。

 坪内さんの伝手を使っても、分析機関を探すのに苦労したぜ。実験室レベルならともかく、数十キロともなると、どうやってそれだけの精製をしたんだか判らん。

 当然、産地も判りようがないし、そもそもほとんどこの世にありえない物質になってる」


「……ありえないが2つか。付着物分析はしたんだろう?」

「ああ。

 品種までは判らないが、ジャガイモの花粉と羊毛が出てる。石英の粉は地面由来だろうから、なんとも言えん。出どころが北海道でもロシアでも、辻褄はあってる」

「どことなく、出来すぎな感があるな……」


 菊池のつぶやきを受けて、双海はさらに爆弾を投げ込んだ。

「もう1つ、さらに驚くことがある。持ち込んだ男の方だが、実は鳴滝だ」

「鳴滝って、どの鳴滝よ?」

「中学の時の同級生の、だ」

「ブラスバンド部のか? 工業高校行った、あのオッドマン?」

「そうだ」

「マジかよ……」

「俺たちに話が来たのは、それもあったんだよ。だが、あいつ、犯罪とかできる奴じゃねーぞ。金の密輸なんかしようにも、犯罪組織が相手じゃ、噛んで喋れなくなる奴だ」


 小学校から中学まで、その男、鳴滝のあだ名はオッドマンだった。理由は当然、毎日挙動不審の一歩手前で、「おどおど」していたからに他ならない。

 茫洋とした風貌の男も、昔を思い出しているのか、返答まで間が空いた。


「確かにな。でも、身辺調査はしたんだろ?

 人は変わるものだ」

「本郷って男と、電気工事の請負の会社を共同経営していたんだが、その男が事故死してな。で、会社を畳んで四十九日が過ぎて、行方不明になった。

 2週間後、戻ってきた時にはその白人女性と一緒だった。おそらくは、金もだ。

 それ以上は、どう洗っても出てこない。調査の際に、その本郷がいなきゃ、自分で仕事を取ってこれるタマでなかったというのは、周囲の証言が一致している。

 本郷の遺族に至っては、『会社の整理で無理にでもお金を作ってくれたのはありがたいけど、どこかの電気工事店に再就職できるか心配で仕方ないから、その金が使えない』とまで言っていた。ま、オッドマンは変わっていないってこったな。

 ただな、中学の同級生のLINEに、義務教育レベルの自習テキストの良いのを教えろって書き込んでいるし、なんていうか、手当たり次第の買い物をしている」

「手当たり次第とは?」

「どこかで、相当に高度な自給自足生活をしたいようだ」

「瀬戸内あたりの無人島でも買って、その女とそこへ逃げて暮らしたいのかもなぁ。

 義務教育レベルの自習テキストってのも、その女用だろ?

 双海、お前も、彼女と無人島生活ってのは、ちょっと羨ましいだろう?」

「うるせぇ。もう、子供も生まれるし、そこまでの色気はねーよ」

 そう言って、2人は軽く笑った。


 そんな経緯があったのだ。

第36話 大車輪

に続きます。

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